心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

会話研究部 第6話 ~師匠と呼ばれた猫~


私は土産屋の前で丸まったまま考えていた。
学は土産屋の店主と何やら会話して帰ったところだ。


学とは小さな公園で出会った少年だ。
何やら悩みがありそうだったので、私の特技を生かして美味しい刺身をもらおうと思っているところだ。


私は野良猫だが、そこいらの猫とは違う。
人間と会話できるのだ。
まあ、会話できると言っても実際に会話したことがある人間は数人しかいないが……。


しかし、会話できるというだけで刺身を手に入れることができる。
そのことは私にとってとても重要な発見だった。


小さな公園のベンチで悩んでいそうな人間に対して、上から目線で話しかけるのがコツなのだ。
後は、適当なことを言っておけばそのうち刺身がもらえる筈である。
しかも、どうやら人間の方も悩みが解決するらしいので、ワインワインの関係だ。
ちなみにワインワインとは、実は良く分かっていないが、どちらも得をするという意味らしい。


つまり私は人間から刺身を取り上げている訳ではないのだ。
しっかり仕事をした見返りをもらうだけだ。

 


ここまで言っておいて何だが、私は悩んでいた。
なぜなら、学がなかなか刺身をくれないのだ。
もう話すことも無くなってきた。
早めに手を打たないとただの野良猫扱いをされかねない。
いや、ただの野良猫なのだが、頑張ったのに刺身をもらえないのは非常に困る。


しかし学は私が「時々刺身をくれ」と言ったら快諾してくれた素晴らしい人間なのだ。
きっと定期的に刺身をくれるに違いない。
そんな人間にはなかなか出会えない。
せめてもう一人くらい部員がいたら私は楽ができると思うのだが……。

 


日が暮れて土産屋の客が減ってきたので私は学校へ向かった。
学ではなくもう一人の知り合いに会いに行くためだった。
その人間は二年前に出会った少年だったが数ヵ月で悩みが解決してしまい、刺身は三回ほどしかもらえていない。
もう少し何かしてもらってもワインワインの関係を保てるというものだろう。


その少年は私の提案を渋っていたが、「いつか必ず」と言ってくれた。
「いつか」がいつかは知らないがとても楽しみだ。