心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

リンク先が変更になります!

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皆様、お久しぶりです。

 

突然ですが、当ブログのドメインを変更することにしましたので、

ご報告致します。

 

具体的には、今までのリンク(https://novel.hirozacchi.jp)が、

来年(2022年)から使えなくなり、

 

新しく、

 

https://hirozacchi-novel.hatenablog.jp/

 

に変更になります。

 

ブックマークしていただいていた方にはお手数をかけますが、

変更のほど、宜しくお願い致します。

 

今まで書いたブログの記事はそのままにしておきますので、

また良かったらご覧ください!

 

いつも応援、ありがとうございます!

 

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筆者コメント1

※この記事は、メインブログの記事「小説ブログの宣伝など」からの転記です。

 

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現在当ブログで執筆中の日向端ヒロ(ひなはた ひろ)です。


当ブログは小説家を目指すための練習の場として開設しました。
そのため、拙い表現も多々ありますが無料ということでご容赦願いたいと思います。


さてこのたび4つの作品を掲載して、伝えたいことや挑戦してみたことなどをまとめてみました。
もし伝わらなかった、分かりにくかった、ということがありましたら私の文章力不足です。

ごめんなさい。
今後も精進していきますのでご愛読宜しくお願い致します。

 

■ぷるぷる大陸物語
初めてブログで小説を掲載しようと思ったとき、やはりファンタジーの方が受け入れられると思い、なるべくメッセージ性を隠してエンターテインメント性を重視しました。
しかし実はメッセージ性も含めています。
誤解されやすく世間から疎まれるような人でも、きっかけさえあればちゃんと仲間を得られるということを描きたかったです。
これからも連載を続けようと思いますので、ハインツという独特なキャラを愛していただけたら嬉しいです。

『ぷるぷる大陸物語』-概要


■会話研究部
この話は私自身の話です。
他人との会話がとてつもなく苦手で、できれば一日中会話無しで過ごせたら幸せなのにと思う幼少期を過ごしていました。
そんな中で『上手に会話する方法』を色々と考えていました。
これは当然会話が苦手な私が書いた小説なので、参考にしてはいけません。
こんな人もいるんだなと思っていただけたら嬉しいです。
これからも連載を続けるつもりなので、学君の成長を見守っていただけたら幸いです。

『会話研究部』-第1話


■時節菜
直接人間と会話することはなくてもそっと寄り添う植物を主人公にしたいと思い書いた小説です。
直接的な会話がないため、三人称視点を初めて書いてみました。
どうやら私は一人称視点が一番書きやすいようです。
メッセージ性については、なるべく分かりやすく書いたつもりなので敢えて語りません。
皆さんの好きなように感じ取っていただけたらと思います。

『時節菜』-第1話


■寄生虫
この物語は、メッセージ性だけを抜き取った感じの超短編小説です。
みんなと違う、協調性がない、そんな人を弾き出すということは、
他の星とは違う地球という存在を、地球上にいる自分たちの存在そのものを否定することと同じだということを描きました。
ダイレクトにメッセージ性だけを重視すると私の小説はだいたいこんなことを言ってるんだなと思います。

『寄生虫』-1話完結

 

■コメントについて
たくさんのコメントを寄せていただきありがとうございます。
大変感謝しております。
コメントの返事はザッチに一任していますので、ここでまとめてお礼申し上げます。
私は自身の特性上、他人との関係がうまくいった試しがありません。
そのため、ブログでのザッチの言動を通して勉強している最中です。
それでも、私はコメントをとても楽しみにしているということだけは伝えたいと思いました。
これからもたくさんのコメントをお待ちしております。


これからもマイノリティが少しでも生きやすい世界を、小説という媒体で発信していきたいと思います。

 

寄生虫


ある日僕は体に不思議なものを見つけた。それは最初は動かなかったが、時が経つにつれて成長して動くようになった。しかもそれは次々に増えてゆき体中に広がっていった。
友達は僕とは違い体に動くものはいない。だからいつもいじめられていた。
僕には先生がいる。先生はたまにしか会えないが色々なことを教えてくれる。だから僕は先生に聞いてみた。
「それは寄生虫っていうんだ。駆除したいなら方法を教えるよ」
先生はいつも優しい。でも僕は駆除することは考えていなかった。とくに害はないし友達と違うからといって同じにならなければいけないとは思っていないからだ。
「もう少し様子をみます」
「そうだね。また何かあったら聞いてね」
先生はそう言うとまた去って行った。
ある日友達が妙なことを言い出した。
「お前の寄生虫が俺のところまで来たぞ。早く何とかしろ」
それは信じられないことだった。なぜならその寄生虫は僕の体でしか生きられないと思っていたからだ。どうせ僕をいじめる口実を作りたかっただけだろう。


僕はついに寄生虫の声を聞くことができた。その寄生虫は僕に名前をつけていた。僕の名前は『地球』だ。僕は誇らしかった。友達は誰も自分の名前を持っていない。もちろん僕の寄生虫がつけてあげているけれども。
また先生がやってきた。
「どうかな。駆除する気になったかい?」
「いいえ。僕は駆除するつもりはありません。だってこれも個性だと思うから」
「いじめられていると聞いたけれども大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。彗星先生」
「彗星ってなんだい?」
「僕の寄生虫が先生の名前を付けたんです」
「それはありがたいことだね」
先生は誇らしげに去ってゆくのだった。

時節菜《じせつな》 第3話(終) ~明日菜・今日菜~

■明日菜
二人の女の子が花壇の雑草を抜いていた。この時期の園芸部は忙しい。抜いても抜いても毎日雑草が生えてくるからだ。しかし、忙しい事が楽しい事であるかのように、園芸部の女の子たちは黙々と作業をしている。
「カナ、こっちもお願い!」
カナと呼ばれた女の子は「はーい」と返事をしてもう一人の女の子の下へ駆け寄った。実は園芸部はカナ一人だけで、もう一人は手伝いをしているだけだ。カナが一年生の頃は部員が沢山居たのだが、地味で大変な作業が原因で次々と辞めてしまい、三年生になった今ではカナ独りになっていた。手伝いをしてくれている女の子は佐伯奈津美という名前で中学校からの友達だ。3年間カナとはクラスが別々だった為、話はそれほどしなかったが、大変な時はお互い助け合える仲だった。
「カナは進路決めた?」
カナは無言で首を横に振った。最近の話題は皆、この話ばかりだった。どこの大学を受験するのか、そもそも何になりたいのか、カナは決められずにいた。得意な教科もなく苦手な教科もなく、どれも平均点という感じだった。『適当に受かりそうな大学を受験してしまおうか?』カナの苦悶が聞こえてきた。
「私は何ができるんだろう? どんな仕事が私に合うのか分からなくて」
「分からないから楽しいんじゃないかな?最初から分かっている事はきっとつまらないと思うよ」
「そうかな? 私は分かっていた方が安心すると思う」
「それは、花壇に造花を植えているようなものだよ。絶対枯れない花に水をあげてもつまらないと思わない?」
カナはハッとした。確かに造花は味気ない。水やりの必要が無いなら見る機会も減るだろう。
「造花は生きてないもん」
「たぶん、分かっている未来は生きていないんだと思う。未来が分からないから努力するし、生きているって実感できる気がするよ」
「奈津美って大人だね」
カナは急に立ち上がった。
「決めた、私は樹木医になる!」
カナは清々しい表情で空を見上げた。

 

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明日菜はふわっと花開いた。明日菜は風菜《かぜな》とも呼ばれていて掴みどころのない透明な花を咲かせる。未来は誰にも分からない。しかし、やりたい事はそれぞれの心の中に既にあるものだ。具体的な形として表れていないかもしれない。自分で諦めて見ないようにしているかもしれない。人はそれを夢と呼ぶ。例え夢を叶えられなかったとしても、夢を追うという行為は決して無駄ではなく、人を成長させるものなのだ。
明日菜は大好きなカナが植物に関わる仕事を夢見てくれた事に、文字通り舞い上がってしまった。そのまま風に乗りカナの下を離れた。
「樹木医ってどうやったらなれるか分からないけれどねぇ」
「分からないから楽しいんだよ、きっと!」
「いやいや、それは分かってないと……」
少しだけ、花を咲かせるのは早かったかもしれない。

 


■今日菜
今日菜はシャキシャキとした食感で、みずみずしく食べた者の時に潤いを与える。少しほろ苦く、それでいてすっきりとした味わいがする。今日と云うものにそっくりだ。水のように生き物に寄り添い、『時』を共にするのだ。
何度も来る今日、そして二度と来ない今日、そんな今日という日にひと時の潤いを染みわたらせてゆく。
いつの日か、その者の前に仲間の時節菜が花を咲かせる事を願って。

時節菜《じせつな》 第2話 ~昨日菜~

■昨日菜
昨日菜は十年ほど前からカナという女の子の傍で漂っていた。その女の子は友達に馴染めず、孤独な小中学校時代を過ごしていた。カナは特にいじめられていた訳では無かったが、学校では一言も言葉を発する事なく過ごす事が多かった。


カナには母親の他にもう一人、良くおしゃべりをする人がいた。それは近所に住む祖母だった。祖母はいつもカナの味方で、ニコニコと話を聞いてくれていた。母親の実家なので母親と一緒に来る事もあるが、カナは一人でも祖母に会いに来ていた。
祖母は色々な事を教えてくれた。カナは学校で教わる事より遥かに為になると思っていた。そして何より、祖母も子供の頃は学校に馴染めず友達が居なかったと言っていた。カナはその頃の話を聞く事が好きだった。


「誰に対しても誠実でいるんだよ。」
これが祖母の教えだった。誠実であればいつか人はそれを分かってくれる。分かってくれる人はきっとあなたにとって最高の友達となるから。


「自分を偽ってはいけないよ。」
例え偽ってもいつかは分かるものだから。嫌な事は嫌だと言っておかなければ、後で分かった時に大きく相手を傷つけてしまうよ。


「過ちに気付いたらすぐに謝るんだよ。」
例えそれが故意でなかったとしても、人は過ちを犯してしまうものだから。言い訳をせずに自分の過ちを見つめ直すものだよ。
数々の言葉がカナの心に染み込んでゆく。やがてそれは、カナ自身の信念となって根付いていった。


高校受験が終わったある日の事だった。
カナは自分の部屋を飾るガラスのイルカを眺めていた。しっぽの部分に接着剤でつけた跡がある。地震の時に折れてしまったのだ。それでもカナはその置物が好きだった。母親がカナを守ろうと必死だった事を思い出せるから。
プルルルルル
家の電話が鳴った。母親が出たようだ。
「カナ、支度しなさい!」
電話を終えた母親が叫んだ。その声は震えていた。普段物静かで叫ぶ事などほとんどない母親の取り乱した声が、地震のときに感じた強い不安を思い起こさせる。
オシャレを知らないカナは支度と言われても何もする必要がなく、そのまま母の下へ急いだ。
「おばあちゃんが危篤だって」
車出すから、と言って母親は外へ走って行った。カナは茫然と立ち尽くしていた。つい先日会ったばかりだった。その時はとても元気だった。少し腰が痛いと言っていたが、お茶も一緒に淹れたくらいだ。何かの間違いじゃないの?カナは半信半疑だった。


病院へ着くと祖父が待っていた。病室では祖母が機械に繋がれ、機械はピコンピコンと不穏な音を立てていた。
「おばあちゃん……」
カナは祖母の手を握った。祖母の手はいつも通り温かかったが、返事は返ってこなかった。母親は祖父の胸で泣き崩れた。


日が沈み闇が空を覆いつくした頃、祖母は静かに息をひきとった。


カナは受験が終わっていたので卒業式まで学校を休む事にした。学校へ行くような気持ちにもなれなかったし、まだ受験が終わっていない人達に遠慮した事もあった。

 

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祖母の葬儀はひっそりと少人数で執り行われた。
昨日菜はその葬儀の傍らでそっと花を咲かせた。昨日菜は土菜《つちな》とも呼ばれていて、どっしりとした土色の花を咲かせる。過去は引きずるものではなく、大切にしまっておくものだ。引きずってしまえばいつかボロボロになり、思い出そうとしても上手く思い出せなくなってしまうものなのだ。丁寧に包んでしまっておけば、前を向いて歩んでゆけるものだから。
昨日菜の想いがカナに伝わったかどうかは分からない。ただ、葬儀を終えた後のカナは凛とした表情を浮かべていた。


卒業式の日、カナは同じ高校へ行く『友達』に話しかけていた。
「佐伯さん、高校でもよろしくね」
佐伯と呼ばれた女の子もカナと同じく、あまり周りに馴染めていないようだった。カナに話しかけられた時も独りだった。
「色々と大変だったね。こちらこそよろしくね」
佐伯と呼ばれた女の子の優しい声を聞いて、昨日菜は種となり遠くへ飛び立った。

時節菜《じせつな》 第1話 ~序章・刹菜~

■序章
「カナ、水菜好きねぇ」
「うん。これは私の仲間だからね」
カナと呼ばれた女性はお弁当の他にわざわざ水菜だけを詰めたタッパーを、幸せそうに開けた。
カナは美味しそうに水菜を次々と口に運ぶ。
「なにそれ?」
「これはお母さんから聞いた、おとぎ話なんだけどね」
カナはそう前置きして、口の中の水菜を飲み込んで話し始めた。
「水菜は今日菜《きょうな》とも呼ばれていてるの。今日菜には昨日菜《きのうな》・明日菜《あすな》・刹菜《せつな》って云う仲間がいるんだよ。この仲間をまとめて時節菜っていうんだ。その中の、刹菜の別名が火の菜って書いて火菜《かな》っていう名前なの。それが私の名前の由来なんだ。だから水菜は私の仲間なんだよ」
「おとぎ話ねぇ。でも刹那ってなんか儚いね」
カナに話しかける女性はうーんと唸った。
「刹菜はお母さんのお気に入りの花だからね。ほんの一瞬だけ燃えるように真っ赤な花を咲かせるんだよ」
「まるで見た事があるみたいね」
「うん、実は見た事あるんだ。昨日菜と明日菜も見た事あるよ。気のせいかもしれないけれど、今の私があるのは時節菜のみんなのおかげだから」
カナは遠い目をしてそれぞれの時節菜を思い出しているようだった。

 


■刹菜
刹菜は平和な『時』を漂っていた。そしてある時、刹菜は一組の親子を見つけた。母親は愛情溢れる笑顔で娘を眺め、小さな女の子もそれに応えていた。とても仲睦まじく幸せな『時』を感じた。
「おかーさーん、お団子あげるー」
女の子が砂場で作った砂のお団子を母親の下へ運び、いくつも並べていた。
「カナ、そろそろ帰るわよ」
女の子の名前はカナと云うらしい。偶然にも刹菜の別名と同じだった。


カナは良く遊び、良く学ぶ子だった。そしていつも母親と一緒だった。そして母親の生活も娘中心となっているようだった。カナの自立心を育む為、寝る時だけは別々だった。
母親の一日は誰よりも早く忙しい。朝食と昼のお弁当を同時に作り、出来上がる頃に父親が起きてくる。そして、ぐずるカナを起こし朝食をとらせる。朝食は母親の仕事を増やす。カナが食べこぼしたところを拭き、カナに行儀を教える。自分が食べるのもそこそこに父親を仕事に送り出し、食器を洗う。その際もカナが何か粗相をしないか常に見ている。


カナは本が大好きで、母親が忙しい時はいつも本を読んでいた。分からない漢字は読み飛ばして後で母親に聞いていた。しかし、ある時ひらがなで書かれているのに意味が分からない言葉があった。『おっしゃる』という言葉だった。しかも登場人物は頻繁に『おっしゃる』ので、どうしても気になった。母親は洗い物で忙しそうなので邪魔したくない。カナは少し前に辞書の使い方を教わったばかりだった。一人で辞書を使えたら母親は褒めてくれるかもしれない。そう思って辞書を探した。辞書は本棚の上の段にあった。カナには届かないところだ。下の段にはカナの好きな本が詰まっているので仕方がない。大人用の大きな椅子は重くてとても運べない為、カナは自分用の小さな椅子を台にしてみた。しかし全く届かない。椅子に本を積み重ねてその上に乗り背伸びしてみた。それでも全然届かずどうしようかと悩んでいた。
「何してるの!」
母親が駆け寄ってきてカナを抱き上げた。手は泡だらけで洗い物の途中だった事にカナも気付いたようだった。
「危ないじゃない。カナの本は下の段に全部あるでしょ?」
母親はとても怖い顔をしていた。母親を邪魔したくなくて声をかけなかったのに、褒められたくて辞書を取りたかっただけなのに、なんで怒るの?
カナは悲しくて悔しくて申し訳なくて、色々な感情が渦巻いて何も言えずに泣いてしまった。出しっぱなしの水がジャーという音を立て、カナの泣き声と重なった。


カナはあまり友達と遊ぶ事は無かった。どこへ行くにも本を持ち歩き、独りで本の世界に没頭していた。新しい本が次々と欲しくなり、まだ読んでいない本がカナの部屋を埋め尽くした。ある時イルカが出てくる本を読んだ事があり、イルカに夢中になった事があった。本に出てくるイルカはとても賢く、とても可愛く、とても勇敢だった。カナは母親にイルカについて熱く語った事があった。普段から大人しいカナの珍しい姿に感激した母親はガラスでできたイルカの置物を買い与えた。本で埋め尽くされた殺風景なカナの部屋を、唯一イルカの置物が彩っていた。母親はもう少し女の子らしく育って欲しいと思っていたのかもしれない。


「おやすみなさい」
カナは自分の部屋のベッドで母親に見守られながら目を閉じた。母親はカナの寝息を暫く聞いてから部屋を後にした。母親は隣の自分の部屋で静かに眠りについた。


夜明け前の事だった。カタカタカタと家具が揺れる音で母親が目覚めた。刹菜はその時大きく成長し燃えるように真っ赤な花を咲かせた。母親は刹菜の花を見ると同時に跳び起きて、カナの部屋へ駆け込んだ。

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「カナ! カナ!」
母親の叫びとドンッという音が重なり部屋が大きく揺れた。母親はカナの上に覆いかぶさり、その上に本がバラバラと落ちた。そして刹菜は陽炎のように消え、再び種となり飛び立った。


 その日、刹菜の仲間が各地で咲き乱れた。辺り一面が一瞬だけ赤く染まり、そしてふわりと消えていった。

会話研究部 第6話 ~師匠と呼ばれた猫~


私は土産屋の前で丸まったまま考えていた。
学は土産屋の店主と何やら会話して帰ったところだ。


学とは小さな公園で出会った少年だ。
何やら悩みがありそうだったので、私の特技を生かして美味しい刺身をもらおうと思っているところだ。


私は野良猫だが、そこいらの猫とは違う。
人間と会話できるのだ。
まあ、会話できると言っても実際に会話したことがある人間は数人しかいないが……。


しかし、会話できるというだけで刺身を手に入れることができる。
そのことは私にとってとても重要な発見だった。


小さな公園のベンチで悩んでいそうな人間に対して、上から目線で話しかけるのがコツなのだ。
後は、適当なことを言っておけばそのうち刺身がもらえる筈である。
しかも、どうやら人間の方も悩みが解決するらしいので、ワインワインの関係だ。
ちなみにワインワインとは、実は良く分かっていないが、どちらも得をするという意味らしい。


つまり私は人間から刺身を取り上げている訳ではないのだ。
しっかり仕事をした見返りをもらうだけだ。

 


ここまで言っておいて何だが、私は悩んでいた。
なぜなら、学がなかなか刺身をくれないのだ。
もう話すことも無くなってきた。
早めに手を打たないとただの野良猫扱いをされかねない。
いや、ただの野良猫なのだが、頑張ったのに刺身をもらえないのは非常に困る。


しかし学は私が「時々刺身をくれ」と言ったら快諾してくれた素晴らしい人間なのだ。
きっと定期的に刺身をくれるに違いない。
そんな人間にはなかなか出会えない。
せめてもう一人くらい部員がいたら私は楽ができると思うのだが……。

 


日が暮れて土産屋の客が減ってきたので私は学校へ向かった。
学ではなくもう一人の知り合いに会いに行くためだった。
その人間は二年前に出会った少年だったが数ヵ月で悩みが解決してしまい、刺身は三回ほどしかもらえていない。
もう少し何かしてもらってもワインワインの関係を保てるというものだろう。


その少年は私の提案を渋っていたが、「いつか必ず」と言ってくれた。
「いつか」がいつかは知らないがとても楽しみだ。