心に噺がおじゃましまっす!

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ぷるぷる大陸物語 第10話 ~漁師の天敵3(終)~

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翌日の昼間、念のため海を見に行ったが、スクジェルは居なかった。

俺の思い過ごしか。

俺は、いったん沖に移動しても戻ってきてしまうのではないかと思っていた。

まあ、戻ってこないならそれは良い事だ。


俺達は帰り支度を始めた。

俺は武器屋へ寄った。矢を買う為だ。昨日かなりの矢を消費したからな。

貧乏性な俺は甲板に落ちた矢は再利用したが、それでも十数本は海に落ちてしまった。

俺は1万リポ払って20本の矢を買った。

これだけあれば十分だろう。

それよりも、俺はサネアツから買った弓の値段を思い出していた。

サネアツは弓と矢セットで1万リポと言っていたが、矢の値段だけで、弓はタダで譲られたのだ。

粋な事しやがって。


「海の幸が食べたい。」

帰ろうと思い全員を集めたところで、アストリアがダダをこねた。

確かに、せっかくのプルパール港町なのに、俺達は一度も海の幸を口にしていない。

プルプール王国で獲れた肉を保存用に干したものや、穀物ばかり食べていた。


「スクジェルの被害があったんだ。仕方ないだろう。」

俺はアストリアをなだめた。無いものは仕方ない。

「ハインツさん。もう一晩泊っていきませんか?今漁に出ていますから、今晩食べられるようにしておきますよ。」

「やった~。さすがスレイさんね。物分かりが良い!」

『これが気遣いができる人の行動よ?』

アストリアが俺にだけ嫌味を言った。

俺は当たり前の事実を言っただけなのだが。

それに、金の無い俺達はスレイの金で泊っている。

まあ、スレイも王国から出してもらっているのだろうが、どちらにしても、もう1泊できるかどうかはスレイ次第だ。俺に権限は無い。

まあ、海の幸を食べられるなら文句はない。

俺は海を眺めながら夜を待つことにした。

 

「黄昏れてるの?」

いつの間にかアストリアが隣に座っていた。

「そんなんじゃない、どうも気になってな。お前は海の幸が待ちきれなくなったのか?」

「えっ!?」

「図星か。スレイが予約してくれているんだ。こんなところで待たなくても海の幸は逃げないぞ。」

「そ、そんなんじゃない!えーと、どうにも気になってな!」

「真似するな。」

「もうっ、海の幸以外に何が気になるのよ。」

「なんとなく、スクジェルが戻ってきてしまう気がしてな。思い過ごしならいいんだが。」

「大丈夫よっ。私の食べ物しか戻ってこないわ!」

その自信はどこから来るのだろう?

まあ、俺もそう願いたい。


辺りが薄暗くなった頃、俺の悪い予感は的中した。

俺は宿に走った。アストリアが遅れてついてくる。

「スレイ、居るか!?大変だ!」

「どうしました?もうすぐ予約の時間ですよ。」

「残念ながらそれどころじゃない。スクジェルが戻ってきた。町の明かりに寄ってきたのだろう。」

「そんな!」

「スタンはどこだ?もう一度力を借りたい。」

「王国兵士駐屯所にいるはずです。」

「わかった。みんなを呼び集めてからそこへ向かう。スレイは先に状況報告しておいてくれ。」

「承知しました。じゃあ、駐屯所で!」


お気楽3人衆を集めて、駐屯所に向かうと険しい表情のスタンが立って待っていた。

「話は聞いたよ。幼龍団の者も見たらしい。本当なら我々が対処すべきだが、もう一度力を貸して欲しい。」

スタンが頭を下げた。本当なら俺達4人とスレイとスタンでこれから食事のはずだったのだ。

スタンは何も悪くない。

「それは俺のセリフだ。完璧に駆除できなかった俺の責任だ。実は今日の昼間から胸騒ぎがしていたんだ。」

「そうか。作戦はあるか?できれば早くしたい。実は漁に出た一般人の船が1艘帰ってきていないんだ。」

「分かった。作戦はある。時間が無いから手短に言うぞ。今回は王国兵士にも海に出てもらいたい。海へ出る方法は昨日と同じ方法で。それぞれの船にできるだけ大きな鏡を持たせて欲しい。俺達が魔法でそれぞれの船を照らすから鏡で光を海に向けるんだ。10艘くらいにスクジェルを分散させてすくい上げる。」

「それはタイマツで照らしてはまずいのか?」

「まずいな。昨日誘導した感じでは、消すタイミングと点けるタイミングがかなりシビアだ。少しでも遅れるとスクジェルに襲われるぞ。」

「そうか、分かった。考えている時間が惜しい。やるか!」


昨日に引き続き、町は明かりを消して闇に包まれた。

対岸に火が灯った。

まずはそれぞれの船に大きな鏡が運び込まれた。

俺達の船に鏡は要らないのでさっと飛び乗り出航した。


俺達の船を含めて11艘。

10艘の船が俺達を取り囲むように等間隔で並んだ。

「ユエルド。それぞれの船を時計回りに照らしていくんだ。」

ユエルドは頷いて1艘の船を照らし、鏡で反射して海面を照らした。

海面の黒い影がその船に近づくのが分かる。

頃合いを見計らって次の船を照らす。

昨日まで経験でスクジェルは暗くなると比較的大人しく危険が無い事が分かっていた。光で誘導だけしたら真っ暗なところですくい上げれば被害は少ないだろう。

それぞれの船に群がったスクジェルを幼龍団がすくい始めた。

思った以上に数が多く、10艘ではすくい切れないかと思った時、港から別の10艘の船が近づいてきた。

今までいた船は港へ帰ってゆく。交代か。

暗闇の中、スムーズに交代していく。素晴らしく訓練されている。

この交代を4度ほど行った頃、海面の黒い影もだいぶ少なくなっていた。

そろそろ一般の船を誘導しても良いだろう。

「おいハインツ。そろそろ魔法が切れる。」

ユエルドには昼間念のため光を吸収しておいてもらったが、確かに吸収した時間と使える時間を考えるとそろそろ切れてもおかしくない。

「分かった。もう十分だろう。これで終わろう。」

俺はあらかじめ渡されていた角笛を吹いた。

これが終了の合図らしい。

無事を確認した後、一般の船が港へ行き、その後俺達も港へ帰った。


港へ戻ると数人負傷者が出ていた。

トルキンエが駆け寄り、処置していく。消毒は魔法ではなく薬を使っている。

トルキンエの魔法は傷を治すだけで、毒を抜く事はできないようだ。

それでも処置するとは、やはり苦しんでいる人を放ってはおけない性格なのだろう。

「スレイ。今使った薬代1万リポで良いからな。」

しっかり金を請求していた。これが冷たいと誤解される原因なのだ。

しかし、誤解されやすい性格じゃなかったら、絶対に落ちこぼれ酒場にはいなかっただろうと思うと、トルキンエの性格もありがたい限りだ。


結局その日も海の幸にありつけず、翌日を迎えた。

俺は疲れ切って昼まで寝ていた。

目が覚めて部屋を出てみるとみんな集まっていた。

「ハインツさん、おはようございます。これどうぞ!」

そう言って差し出されたのは、生魚の切り身だった。

俺はそれを手づかみで食った。

色々と苦戦したが、今度こそ大丈夫だ。

新鮮な魚の味は、俺の不安を綺麗に消し去った。

 

「よし、帰るか!」

「え?昨日行けなかった店を予約しなおしましたよ。もう一晩泊りましょう。」

『き・づ・か・い!』

スレイが言い終わらないうちにアストリアの心の声が聞こえてきた。

もう海の幸は食べたじゃないか。

『それとこれとは別なのよ。』

わからん。


俺は1人で海を見に行ってみた。

スタンが幼龍団に指示を出していた。

「スタン。昨日は助かった。そっちの負傷者は無事か?」

「ああ、ハインツ君。君の仲間のおかげでみんな元気だよ。もうスクジェルもだいぶ減ったから、もうひと頑張りしているところだ。」

そう言って指さした先には、スクジェルの山ができていた。磯臭いと思ったらこれのせいか。

「もう1泊する事になった。夜まで手伝おう。」

俺は幼龍団にまじって、船から上がってきたスクジェルを山に積み上げるだけの作業を淡々とこなした。

スタンは休んでおけと言ったが、幼龍団は昨日も今日もずっと働いているのだ。昼まで寝てしまっただけでも申し訳ない。

こんな時、自分の魔法が役に立たない事が恨めしい。


そして夜、俺達はスレイが予約した店へ行ってみた。

かなり豪華な店だった。どうせ代金はスレイ持ちだから良いが、高いんじゃないのか?

女2人は嬉しそうにはしゃいでいた。

スタンも到着した。

「やっと落ち着いて話ができるな、ハインツ君。」

「まあ、用が無ければ話す事も無いだろう。俺達が話す事が無いという事は平和で良い事だと思うぞ。」

「はっはっ。そうだな。平和は良い事だ。」

お気楽3人衆は黙って聞いている。皆賛同しているようだ。

『違うわよ!緊張してるの!』
アストリアのツッコミは緊張しているように思えないが。

「ハインツ君、出身は?」

「プルプット村だ。山奥にある小さな村だ。」

「へえ。そうは見えないな。プルプット村の男は四角い顔ばかりだと思っていたよ。」

「ああ、確かにあの村はみんな四角い顔だったな。俺の親はあの村出身じゃないらしい。俺が物心つく前に死んだから詳しくは知らないが。」

「これは失礼。話を変えよう。スレイ、なんで王国兵士を辞めたんだ?」

「叔父さん、もうその話は何度もしたでしょう。」

「お前、王国兵士だったのか。ただの役人にしては良い動きすると思っていたが、なんで辞めたんだ?」

「ハインツさんまで!?じゃ、説明しますよ。今のプルプール王国は問題が起きてもその場限りの対応しかできていないんです。もっときちんと対策を練れば被害は減ると思うんです。役人になって、もっと制度を作りたいんですよ。」

「もったいない。お前なら飛龍団の兵士長も夢じゃなかったのに。」

スタンは渋い顔をした。

飛龍団というのは、地龍団と並ぶ王国兵士のエリート集団の事だ。

黒い制服で龍のエンブレムを付けている。子供たちの憧れでもある。

遊撃部隊とも呼ばれ、大陸全土を飛び回っている。

地龍団は近衛兵として王国を守るのに対し、飛龍団は大陸全土を守る集団なのだ。

そして兵士長には代々『龍の奇跡』という剣が受け継がれている。

一度で良いから『龍の奇跡』を振るってみたいと思うのは、漢の性だろうか。

「それでもです。飛龍団に入ったらそれこそ、その場限りの問題解決に追われてしまいます。はっきり言いますが、今回の件は例え飛龍団が来ても解決できなかったと思いますよ?そしてハインツさんの実力は私にしか見抜けなかったと自負しています。」

「むぅ。確かに、我々も手を出せなかった問題をたった3日で解決した事は凄い偉業だ。」

つまらない話になってきたので、俺は黙々と海の幸を堪能した。

 

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