心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

ぷるぷる大陸物語 第1話 ~落ちこぼれと言われた者たち~

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とある世界にぷるぷる大陸という大きな大陸がある。

その大陸にはプルプール王国という国があり、大陸全土が一つの大きな国となっている。

各地に町があるが、全ての町はプルプール王国が統治していて、人々は平和に暮らしていた。

 

この世界には魔法が存在していて、魔法を使える者と魔法を使えない者、魔法を使える動物と魔法を使えない動物が混在していた。

魔法を使える者は魔術師と呼ばれていた。そして、魔法を使えない人にとって町を出て旅をするという事は、とても危険な行為であった。

その為、プルプール王国では大陸全土から魔術師を雇い、各地の魔法を使う動物を調査し、人を襲う動物の捕獲または駆除を行っていた。

王国で雇われた魔術師たちは、酒場へ行って仲間を集める風習がある。

その為、王国の酒場はいつも繁盛していた。

 


俺は王国に雇われたばかりの魔術師だ。

 

王国は基本的に魔術師であれば誰でも雇うのだが、俺は魔術師と認められる事にとても苦労した。

なぜなら、俺の魔法は他人の使う魔法がどんな魔法なのかを視る事ができる調査系の魔法だからだ。

これは目に見えない魔法に対してはとても効果的なのだが、目に見える魔法であれば何の意味もない。

火を出す魔法を見て、「あれは火を出しています」と言っても門前払いを食らうだろう。

 

しかし俺はこの魔法にかなりの誇りを持っている。

俺が魔法を使えるようになったのは、まだ言葉もまともに喋れないくらい子供の時だった。

その時、自分や周囲の人たちが、もやもやとした何かを纏っているのを見た。

後にこれは俺にしか見えない物であり、俗にオーラと呼ばれている物なのだと分かったが、その時はただただ不思議で面白く、オーラの動きを見ている事が楽しかった。

 

魔法とはこのオーラを使う事であり、オーラを何かに変えたりオーラを使って物を動かしたりする事なのだ。

魔法を使える者でもオーラを視る事ができる者はおらず、その為、オーラを使って物を動かすと物が宙に浮いて見えるらしい。

 

つまり、俺は単純にオーラを視る事ができる、というだけなのだ。

 

しかし、学校で原子について学んだ時の事だった。

この世界での最小の物質が原子であり、全ての物は原子からできていると教わったが、オーラの存在は出てこなかった。

俺はそこで気付いたのだ。オーラは原子よりも小さな粒子でできていて、原子はオーラの粒子が集まって作られた物なのだと。

魔法は、オーラを物質に変える事もできる。椅子を出してそこに座る事もできるが、その材質は多種多様だ。

しかし、オーラですべての原子を作り出せるなら説明がつく。

つまり俺は魔法などという曖昧なものは存在せず、化学や物理学で全て説明できる現象なのだと思ったのだ。

 

 

蛇足だが、俺はもう一つ気付いた事があった。

ぷるぷる大陸全土に多く存在するプルプルという生物がいるのだが、この生物の体を構成しているほとんどが俺の視ることのできる粒子その物だったのだ。

中心部にある核となる小さな内臓を除けば、それは全てぷるぷるとした触り心地で、強く叩くとすぐに壊れて散り散りになってしまう。

オーラを視ることができない者にとっては、消えてなくなったように見えるだろう。

その事から、俺はこのオーラの粒子単体をプルと名付けた。

プルが集まり原子となり、原子が集まり物質となるのだ。


そんな視るだけが取り柄の俺は、いくつかの酒場を回ったが誰にも相手にされず、一軒の寂れた酒場の前に立っていた。

 

<落ちこぼれ酒場>

 

看板にはそう書かれていた。ここは誰にも相手にされず落ちこぼれた魔術師が集まる酒場なのだ。

普段は魔術師としてではなく、魔法を使えない者と同じ仕事をして、この酒場で集まるだけという事だ。
できれば避けたいところだったが、今の俺にはここしか無い。

 

俺が中に入ると、数人の客が各々独りで呑んでいるのが見えた。誰も仲間を集めようとしていない。仲間を集める場、ではなくただの酒場だ。

しかし、俺は自分に近づくオーラを視ていた。

特に悪い感じがしなかったので避けもせず、されるがままにしておいた。

すると、そのオーラは俺の頭の辺りに触れたままになった。

『心を読めるのか?』

俺が心の中で呟くとオーラの発信元の女性がビクッとしてオーラが去っていった。

 

俺は店に入る前から予想していた事がある。

誰からも相手にされず<落ちこぼれ酒場>へ来る魔術師の多くは調査系なのではないかと。相手の心が読めたところで、直接動物を攻撃する事もできず、身を守る事もできないのなら、確かにこの酒場に相応しいかもしれない。

 

俺はこの女性を仲間にするべきだと感じた。俺の能力ととても相性が良いと思ったからだ。

「俺と組まないか?」

その女性の前に座り、単刀直入に言った。

「なぜ?」

今まで誰からも相手にされなかった者にとって、店に入った直後にこんな事を言われたら、いくら仲間を求めていたとしても当然の反応なのだろう。しかも、この店に入り浸ればずっとその生活でも良いと思ってしまう者もいるだろう。

「心を読めるんだろう?その能力が必要だからだ。」

「初めて言われたわ。そんな事。」

「悪いが感想は要らない。必要な魔術師を集めたら直ぐに仕事を始めるつもりだ。俺と組むか、組まないか、今決めてくれ。」

「組むわ。」

即答だった。

その時、その女性のオーラは俺の頭に触れていた。何を読み取られていたのか分からないが、俺にとっては自分と組んでくれるならどうでも良い事だった。

「あと2人くらい仲間が欲しい。この店で使えそうな魔術師はいるか?」

俺の問いに、応えるまでも無いという風に苦笑いをした。

俺は思考を巡らせた。

『別に動物の駆除だけが仕事じゃない。調査さえできれば立派に仕事は行える。俺と彼女で調査して、後は隠れたり逃げたりできれば・・・』

「そーゆー事なら居るわよ。奥にいる人は闇の魔術師って呼ばれてるの。彼の周りも彼自身の性格も真っ暗よ。」

「それは都合が良い。ところであんた、名前は?」

「アストリアよ。あなたは?」

「読めないのか?ハインツだ。」

「頭に浮かんだ言葉を拾う事しかできないのよ。深い所まで読めたらこんな酒場に居る訳ないわ。」

俺はそれには応えず、ただ頷いて闇の魔術師の元へ行った。

 

「聞いていた。闇の魔法はそんなに役に立たないぞ。ただ暗くするだけだ。」

「問題ない。動物の駆除の仕事はやらないつもりだ。調査する時に隠れられる魔法は役に立つさ。」

「よし、組もう。俺はユエルドだ。」

「俺は…」

「聞いていた。ハインツだろ。そっちの女も知っている。」

「そうか、よろしくな。」

「これだけいれば十分だ。行くか。」

 

その時、ずっと俺たちに背を向けて呑んでいた女性が突然立ち上がり、

「ちょっと私を忘れてるんじゃないかい?」

と凄んできた。酒臭い。明らかに酔っている。

「そいつはやめておけ。トルキンエって名前で ” この酒場 ” で有名な治癒魔術師だよ。」

「 ” この酒場 ” で、か。」

それで意味は通じた。治癒魔術師なんて普通なら誰でも仲間に欲しい人材だ。一癖あるのだろう。

「あなた、良い仕事見つけたって言ってたじゃない。」

アストリアが横から入ってきた。

「あの仕事は魔力が持たないのよ。1日に5~6人しか診れない私じゃ、大した稼ぎにならないのよ!」

『おや?癖はあっても魔法の腕は確かなのか?』

俺は腕自体がそれほど良くないのだと思っていたが、仕事にできるくらいの魔法は使えるらしい。

「じゃあついて来るの?」

「もちろんよ。よろしくね、ハインツさん。」

「まだ仲間にすると決めた訳ではない。試験をする。」

「何でだよ!その2人は何の試験も無く仲間にしたじゃないか!」

「 ” 俺の仲間 ” のユエルドがやめておけと言うんでな。」

「くそっ。ユエルドお前~。だいたい今さっき仲間になったばかりじゃないか!私だって同じだろう!」

「時間は問題じゃない。仲間は俺が決める。」

そう言うと俺はナイフを取り出し自分の腕をばっさりと切った。

「な!?何してんだあんた!」

「治してみろ。」

「くそっ!もうクタクタだって言うのに!」

「仲間になりたくないならやらなくても構わない。どうする?」

「やるよ!やりゃ良いんだろ!」

そう言うとトルキンエは杖を軽く振り、俺の腕にオーラを当てた。

そしてみるみるうちに腕の傷は跡形も無くなった。

なるほど。プルを対象の体の組織に変化させて元通りにしているのだ。相当な魔力が必要だが、腕が吹き飛んでもこれなら治せるかもしれない。

「流石だ。組もう。」

「ちょっと待て。俺は認めないぞ。」

ユエルドはあくまで反対らしい。

「一応聞こうか。」

「おう。そいつはな、肝心な時にその魔法をケチるんだ。いつかきっと、俺たちを見捨てても自分の身を優先する日が来るぞ!」

「言いがかりだ!あんたに何が分かる!」

ユエルドとトルキンエが殴り合いそうになった。とても魔術師の喧嘩とは思えないが。

「そんな事は問題ない。自分の身を優先するのは当然だ。実際に野生の動物を相手にするなら一瞬の迷いが生死を分けるんだ。アストリアもユエルドもトルキンエもまずは自分を優先して構わない。その代わり、自分の安全が確保できたら助け合おう。」

「あ、あぁ。」

毒気抜かれたのか、ユエルドもトルキンエも振り上げたこぶしのやり場に困ったようだ。そのまま「ふんっ」と顔を背けて腕組みしていた。

「まあ、トルキンエは相当酔っているから、出発は明日にするか。」

「え?まさか今から出発する気だったの!?」

アストリアが驚きの声をあげたので、本当に心が読めるのだろうか?と不安になった。