ぷるぷる大陸物語 第2話 ~猪突猛進に終止符を1~
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翌朝さっそく俺達は王国の西に広がるプルプール大森林へ出発した。
王国に雇われた魔術師は、まずはこの森の仕事から始める。
魔術師には手ごろだが、非魔術師には手強い動物が住む場所であり、王国としても常に魔術師の力を借りたい場所となっているからである。
そして、生涯この森の仕事で終わる魔術師や、この森にすら出かけられず『落ちこぼれ酒場』で終わる魔術師も少なくない。
俺の名前はハインツ。
人や動物の使う魔法を解析する調査系の魔法使いだ。
俺にとってもプルプール大森林は初めてとなる。
そして一応先輩の魔術師3人にとっても初めてらしい。
アストリアは人の心を読む魔法使いだ。
俺はこの魔法にかなり期待している。恐らく人だけでなく動物の心も読む事ができるだろうと考えているからである。
俺の想定している仕事は討伐ではなく調査だ。
どこにどんな動物が住んでいて、どのような習性があり、何に気を付けなければならないのか、動物の情報を正確に把握すれば駆除する必要もなく共存できる世界が作れると考えている。
その為にはどうしても動物の心を読む魔法が必要不可欠だった。
ユエルドは闇の魔術師だ。
闇を操り動物の目を奪う事ができるらしい。俺は3人の中で唯一ユエルドの魔法だけ視ていなかった。
しかし心を読めるアストリアに紹介された人物だ。間違いないだろう。そして動物の目を奪う魔法もまた、調査には重要な魔法だ。
最後はトルキンエといい、治癒魔術師だ。
性格はかなり荒いが腕は確かだ。昨日俺の腕を一瞬で治癒してみせた。俺は動物と闘うつもりは無い為、こいつの存在は保険みたいなものだった。いたら便利くらいにしか思っていない。
ユエルドの魔法で動物に気付かれないように近づき、俺とアストリアの魔法で調査を遂行して帰宅、というのが俺のシナリオだった。
しかし、先輩魔術師3人は不満らしい。魔術師の花形の仕事と言えば討伐、駆除だからである。より強い動物(魔物、魔獣などと呼ばれる)を討伐すると多くの報酬と名誉を与えられるのだ。
もちろん、今の俺達にそんな大役をこなせるはずもないので、粛々と調査の仕事をするまでなのだが。
今日の目的はウリリーの調査だ。
猪のような動物で、猪よりも小柄だが突進する時のスピードが物凄く速い。恐らく魔法により推進力を高めているのだろう。非魔術師がまともにウリリーの突進を受ければ即死する。そして、戦う魔法を使えない俺達も例外ではない。
この動物は、プルプール大森林の入ってすぐ辺りに生息していて、たまに人里に現れては被害を出している有名な動物だ。
それだけに討伐よりも調査が必要なのだ。
森を歩いて小一時間ほどした時、3匹のウリリーを発見した。
「ユエルド、闇を。」
姿を隠してしばらく観察をしたい。
「無理だ。」
ユエルドから意外な言葉が出てきた。
「なんだと?」
「俺の魔法は昼間に闇を作り出せるほど万能じゃない。夜に月明かりを消して相手の目を奪うんだ。」
「けっ、とんだ役立たずだな。」
トルキンエは昨日の晩の事を根に持っているのか、即座に反応した。
「まあ、静かにしてろ。気付かれなければ問題ない。」
俺は2人の事は無視して、ウリリーの観察を再開した。
するとそこへ突然、プルプルが現れた。
プルプルとは大陸全土に生息していて、体全体がぷるぷるした感触で体当たりしかできない大陸最弱の生物だ。強く叩けば体が消えてしまう為、食べる事もできない。
プルプルはうっかりウリリーの前で出てしまったようで、すかさず逃げようとした。
しかし、時すでに遅し。ウリリーに囲まれ突進されて消えるのを待つのみだ。
「かわいそう。」
アストリアがそうつぶやいた。
俺は自然界の出来事にそのような感情を抱いた事は無いが、別の事を考えていた。
プルプルは大陸全土に存在していてあまりにも一般的である為、誰も気にもとめないが、実はオーラの粒子をそのまま体に集結させてその触感を作り出している世にも珍しい生物なのである。
『育てれば意外と強くなるかもしれない』
俺は心の中でそうつぶやいた。
「助けてあげて。」
アストリアが俺の心を読んだのだろう。
「良いだろう。その代わり、サポートしろ。ウリリーの動きを俺に知らせろ。」
「どうやって?」
「人の心を読めるなら、ウリリーだって読めるだろう。突進する前に合図するだけで良い。」
「わかった!」
声がでかい。
ウリリーがこっちに気付いた。
俺はナイフを構えて睨み合った。するとユエルドが隣に並んだ。手には今しがた拾ったと思われる太い木の棒が握られていた。まあ、倒せなくても追い払えれば良い。
ウリリーは1匹はプルプルを追いかけ、残りの2匹がこちらに向かってきた。
「今よ!」
合図と共に俺たちは左右に跳んだ。絶妙なタイミングだ。かすりもせずに避けられる。
恐らくウリリーの突進は時速150kmほど、合図無しでは確実に死ぬだろう。
その後、俺達は別々に名前で合図され、避け続けた。
「ハインツ!」
「ユエルド!」
そう呼ばれるたびに横へ跳躍する。そして突進のスピードがかなり落ちてきた。
本来1撃必殺の突進なのだ。魔力も体力も尽きるだろう。
そろそろナイフで顔を突けば驚いて逃げるだろうと思っていた。
しかし3匹目が背後から突進してきた。
「ハインツ!」
その呼びかけに同じように横へ跳躍したのだが俺の体力も落ちてきたのだろう。少しだけかすってしまった。
かすっただけでかなり吹き飛ばされた。…が、まだ戦える。
ところが3匹目のウリリーはその後ターゲットをアストリアに変えた。
「やばい!」
俺はアストリアへ突進するウリリーに向かって、ナイフを構え横から突いた。
アストリアが吹き飛ばされた。無事かどうか分からない。
俺のナイフはウリリーに大した傷を負わせる事はできなかったが、驚いたのか逃げだした。
そして、ユエルドも1匹撃退していた。苦戦したのか、かなり息があがっている。
残りは1匹。
「ユエルド!」
アストリアの声だ。トルキンエが治癒魔法を使ったのだろう。
しかしユエルドには合図に反応するだけの体力が、もう無い。避けられないか?
そう思った矢先、とてつもない閃光がほとばしった。俺たちは一瞬にして視界を奪われた。
ウリリーの悲鳴が聞こえ、そして辺りは静寂に包まれた。
「今の何だ?」
ようやく目が慣れてきて、ユエルドの顔が見えるようになってきた。
「それは後だ。トルキンエ、なぜハインツを治癒しない?」
ユエルドがトルキンエに食ってかかった。
「まだ戦えるからな。」
トルキンエは素っ気なく答えた。
「ハインツは後回しか?」
「待って!」
アストリアが制止した。
「そうじゃないの、トルキンエはちゃんと考えてたのよ!」
「待て、みんな落ち着け。俺は平気だ。あのプルプルを回収して帰るぞ。」
ユエルドとトルキンエはしぶしぶ、と言った感じでついてきた。