ぷるぷる大陸物語 第7話 ~それぞれの仲間との一幕~
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「ハインツ~」
珍しくアストリアが家を訪ねてきた。
「どうした?」
「んとね~」
自分から訪ねてきたのになかなか用件を言わない。
『弓の使い方、教えて欲しいの』
「え・・・?」
『だからー、弓使えなかったの・・・』
あれは人間が使う道具だぞ?
人間が使えないとかあるのか?
というか、そのくらい口で言え。
『だって、だって、ハインツだって口で言わない事あるもん』
確かにそれは認める。
しかし、今の俺達を他の人が見たら、家の前で無言で突っ立ってるだけだ。
とりあえず家の中に招いた。
アストリアには弓は難しかったか。それなら、とトルキンエの事が頭をよぎった。
『教えてくれたら頑張るから!それにさっきトルキンエの所行ってきたけど、トルキンエもダメだったよー』
は?
俺は人間を仲間にしたつもりだったが・・・?
アストリアはいつもの膨れっ面になっていた。
仕方ない、教えるか。その代わりプルニーの魔法習得も手伝ってもらうぞ。
俺達は王国を出て、プルプール大森林と王国の間にある広場に来た。
ここは人間も動物も少なく、居たとしても大人しい動物ばかりだ。
魔法や剣などの練習に最適な場所で、遠くから王国の兵士たちの掛け声が聞こえてくる。
『とりあえず思うようにやってみろ』
アストリアは恥ずかしそうに弓を構えるとへっぴり腰で弓を引いた。
弓の弦がバイーンと大きな音を立てた。矢はアストリアの足元に落ちていた。
・・・。
『言い方が悪かった。下じゃなく前に向かって飛ばすんだ。』
『分かってるもん!』
1ミリも前に飛んでいないが?
『だから教えてって言ったの!』
直接思念を送って怒鳴られると、頭に響いて痛い。
これ以上怒鳴られたくないので、ちゃんと教える事にした。
後ろからアストリアの両手を握り、そのままぐっと弓を引いた。
『手を放すぞ。そのままの状態を維持しろ。』
アストリアも真剣な表情だ。
俺は手を放して離れた。
『その姿勢を覚えろ。覚えたら弦を放してみろ。』
シュッ
という軽い音と共に矢が前に飛んだ。
まだ完璧とまでは言えないが、さっきよりはだいぶ良い。
『次は自分でやってみろ』
アストリアは黙々と、練習を続けた。
俺も自分が弓を使っている感覚でイメージを伝えた。
アストリアの魔法のおかげだろうか?
俺のイメージ通り、弓の扱い方がどんどん様になり、小一時間でチェリートを狩れるくらいの腕前になった。
アストリアは他人のイメージをそのままトレースして動けるらしい。
しかし無意識だと読み取れない為、俺やスレイの動きを見ていても全く学習できなかったのだ。有能なのか無能なのか、不思議な人材だ。
その後、プルニーに魔法を覚えさせた。
今回はチェリートの使っていた魔法だ。
プルを強く高速で擦り合わせれば熱が発生する。
これで風を出せるし、水と組み合わせれば霧を出せる。
しかしこれにはプルニーも苦戦した。
プルを擦り合わせる事はできるのだが、全く熱が発生しない。
力が弱く、ただプルが動いているだけなのだ。
練習を続けるようアストリアに言って、俺だけ先に戻る事にした。
俺はユエルドの家を訪ねた。ユエルドとは一度サシで話をしたいと思っていた。
「おう、ハインツか。今日は1人か?」
いつもアストリア、ユエルド、トルキンエの順で誘って森へ出かけるので、1人で訪ねるのはこれが初めてだ。
「まあな、入っていいか?」
ユエルドは軽く頷いて、俺を部屋に招き入れた。
ユエルドの部屋は黒を基調としてかなり暗いイメージだ。
自ら闇の魔術師という印象を付けて、本当の魔法を隠したいという意図が見て取れる。
俺自身も同じだから良く分かるのだ。
「もう俺の奥の手はあれで全部だ。もう一度見たいのか?」
ユエルドは俺が何をしに来たのか分かったらしい。
「それもある。見せてくれたら俺も奥の手を明かすべきだと思ってね。」
ユエルドは頷いて右手を広げた。ユエルドの右手が徐々に暗くなる。
「俺は光を操る事ができる。今光を吸収しているから暗くなっている。」
そう言った次の瞬間、手が光った。
「吸収した光を解き放てば、光を発する事ができる。だから夜は辺りを暗くする方が得意で、昼は光を発する事が得意なんだ。」
「例えば昼に光を多く吸収しておいて、夜に光を使う事もできるのか?」
「そうだな、吸収した時間の半分くらいに減るが、準備時間に応じて使えるぞ。昼に2時間吸収し続ければ夜1時間は使い続けられる。ただし、眠っている間に吸収した光は散っていくから何日もためておく事はできない。」
「なるほど、だいたい分かった。次は俺だな。」
「俺はお前がリーダーだと思っている。お前が全てを知っていれば俺はコマとして動く。別に無理に言わなくても良いんだぞ?」
「いや、ユエルドも知っていた方が今後作戦が立てやすい。」
「それなら聞こう。」
俺は軽く頷いた。
「俺は相手の魔法を視る事ができる。さらに、一度視て理解した魔法を使う事ができる。ただし、相手の魔法を使う場合は、その魔法を使う魔術師や動物に直接触れていなければならない。」
「どんな魔法でも使えるのか?」
「理解さえできればな。だが、その魔力は俺に依存するから全く同じようにとはいかない。俺にも得手不得手がある。やはり調査系の魔法の方が得意らしい。アストリアの魔法はとても相性が良いんだ。アストリアに触れてさえいれば本人より扱いは上手いと思っている。逆に攻撃系の魔法はかなり苦手だ。昔、火を出す魔術師の魔法を使った事があったが、マッチを持ち歩いた方が現実的だと思った。恐らくユエルドの魔法も使えなくはないが、マッチで照らした方がよっぽどマシだろう。」
「なるほど。万能という訳では無いんだな。」
「万能ではないが、これには大きな利点がある。相手の魔法の本質を理解しているからその人の魔法の応用技を教える事ができる。アストリアは元々相手の心を読むだけだったが、相手に思念を飛ばす事もできるようになった。いつかユエルドもトルキンエも応用技を考えられると思うぞ。」
「なるほどね。その時はありがたく教えてもらおう。」
「それからな。複数人に触れると、全員の魔法を全てトレースできるようになる。それで2人や3人の組み合わせ技を開発してやったりもできる。」
「悪いがそれはパスだ。他人と息を合わせるのは最も苦手な事でね。」
「そうか?まあ、その時になったらまた考えてみてくれ。」
「ふっ。俺より他人と息を合わせられそうにないお前に言われるとはな。まあ、考えてやるさ。それよりお前も、女は優しく扱った方がいいと思うぞ。」
「なんだ、いきなり。俺には関係ない事だろ。」
「知らなかったのか?俺達の仲間には2人も女が居るんだぞ?仲違いはしたくないからな。」
「ほう。一番仲違いしてた奴が良く言うぜ。考えておいてやる。」
「はははっ」
ユエルドの家を出て帰ろうと思ったが、せっかくなのでトルキンエの家も寄っていく事にした。
トルキンエの家は留守だった。
しかし、トルキンエの家から見える広場に、子供たちに囲まれている1人の女性を見つけた。服装は白衣姿でトルキンエらしくないが、顔は見覚えがある。
「トル姉ちゃん、ここの編み方教えてー」
「あん?前教えただろ?一回で覚えろ」
などという声が聞こえる。ぶっきら棒だが、なんだかんだで優しく教えている。
トル姉?やはりそうなのか?
なんだか見た目だけトルキンエで中身は別人のような気がしてきた。
半信半疑で声をかけるのを躊躇っていると、1人の子供が泣きながら『トル姉』のところへやってきた。
「あああー、ころんだぁ-」
膝と肘をすりむいているようだが元気そうだ。
「男だろ?我慢しなっ」
そう言って消毒液らしきものをぶっかけた。
「魔法で治してよー」
「ふんっ。この程度で魔法に頼るなっ。王国兵士になるんだろ?」
「だってー」
子供は泣いていたが無視して編み物に戻っている。
トルキンエである確信が持てたので声をかける事にした。
「よお、トル姉。人気だな。」
「あーん?誰かと思えばハインツか。仕事か?」
「いや、今日は様子を見に来ただけだ。」
「じゃ、帰りな。」
「まあそう言うな。それ貸してみろよ。」
自慢じゃないが、編み物は得意だ。
トルキンエの教え方は擬音ばかりで何も要点を言っていない。
ここをくいっとやって、ぎゅっとやって、ぐっとひっぱる。。。では子供に伝わるわけがない。
俺が何本目の糸に通すかなど、具体的に教えてやるとすぐに1人で編めるようになった。
「お前、友達いなくて1人寂しく編み物してたのか?」
トルキンエが物凄く失礼な事を言いやがった。
「ハイ兄、寂しかったのー?」
子供が真似をしやがった。このやろう。ハイ兄じゃねぇ。ハインツだ。
「ハイ兄、玉蹴りしよー?」
さっきまで泣いてた子供がころっと元気になって俺のズボンを引っ張っている。
「元気になったんなら友達と遊びな。俺は忙しいんだ。」
「ちぇっ」
俺は知的でない遊びは嫌いだ。玉蹴りも知的にできるスポーツだが、子供は走り回るだけの方が楽しいだろう。
「おい、ハイ兄、アストリアとは仲直りしたのか?」
「は?仲違いなんかしてねぇから、仲直りも何もないだろう。さっきも弓の扱い方を教えてやったところだ。」
「そうかい。それなら良いけどな。女の子は優しく扱えよ。」
ユエルドと同じ事を言いやがる。
「女の子は優しくね。ハイ兄。」
子供が馬鹿にしてくる。
「優しくして欲しいのか?トル姉」
「私じゃないよ。まあ、頑張って考えな。」
トルキンエがしっしっと帰れの合図をした。
俺もそろそろ飽きたし、その場を退散した。