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ぷるぷる大陸物語 第9話 ~漁師の天敵2~

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 『ぷるぷる大陸物語』についての概要、キャラクター設定、第1話へのリンク等は、

『ぷるぷる大陸物語』-概要

をご覧ください。

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その夜、港へ行ってみた。

スタンの姿は無かったが、顔パスで警備を解いてくれた。

 

相変わらずスクジェルは大量にいたが、昼間に比べると数が減っているように見える。

アストリアの手を握り集中してみた。

何かが昼間と違った。

昼間の興奮状態が冷めたのか、随分と大人しい。

「ユエルド、海面を照らしてみてくれ。」

「一応、奥の手なんだ。むやみに使わせないでくれ。」

そうぼやきつつも、素直に従った。

本当に年下の俺をリーダーだと思っているのか。ありがたい。

「心配しなくても、そのうち別の奥の手を考えておく。」

俺はそう付け加えておいた。

海面が照らされた途端、スクジェルが光に引き寄せられるように集まり昼間と同じように興奮状態になった。

光が関係しているのか?

「逆に暗くしてくれ。」

突然辺りが暗闇に包まれた。器用なものだ。月明かりすら見えない。

スクジェルはというと、面白いように落ち着きを取り戻している。

「スレイ、色々と分かった。明日作戦を立てよう。スタンに会えるか?」

「ええ、もちろん。叔父さんの力が必要なんですね?その作戦、私は今知りたいです。」

「まあ、隠す必要もないから言っておこう。スクジェルは光に集まる習性がありそうなんだ。明日の夜このスクジェルの群れを避けて沖まで船を出して欲しい。そこで俺達が光を使って集めるから、街の光は全て消して欲しい。王国兵士の総司令官ならできるだろう?」

「なるほど、それは確かに叔父さんの力が必要ですね。明日会えるように言っておきます。」

「お前は今日会えるのか?それならお前から作戦を伝えておいてくれ。俺はスクジェルを避けて船を出せる場所を探しておく。」

「分かりました。船を出せる場所も叔父さんの方が詳しいですから、ハインツさんは明日に備えて休んでおいてください。」

「そうか。じゃ、よろしく頼む。」

 

宿に戻り、俺は考えていた。

もしアストリアやユエルドがいなければ、調査もできなかった。

もしスレイがいなければ、この作戦は机上の空論だ。

本当に俺は仲間に恵まれた。

女には優しく、か。

急にユエルドとトルキンエの言葉を思い出した。

何か買ってやるか。

布団の中で意識が遠のく中、かすかにそう思ったのを覚えている。

 

 

「ハインツさーん。居ますか?今良いですかー?」

朝からスレイの元気な声が聞こえてくる。

「朝から元気だな。」

扉を開けながら言った。

昨日は夜遅くにスクジェルを見に行ったので、遅めの朝食を食べていたところだった。せっかくプルパール港町に来たのにスクジェル被害のせいで魚介類が全くない朝食だ。

「お、食事中だったか。出直そうか?」

スタンも一緒だった。もう話がついているのだろうか?

「いや、作戦について話したいと思っていたところだ。みんなを集める。」

 

ユエルド以外は全員起きていた。

ユエルドは魔法の性質上、夜に行動する事が多く、自然と夜型になったのだろう。とても眠そうだ。

「さっそくだが、作戦はスレイから全部聞いた。町の明かりの件は任せろ。今、幼龍団が全ての家に伝令している。船の件はちょっと厄介だ。今のところ船を出せそうな場所は無い。」

「それなら俺に考えがある。港の片方の端だけ明かりを付けてスクジェルを集めておいてくれ。反対側から船を出す。船が沖まで行ったら明かりを消してくれ。後は俺達がスクジェルを沖に誘導する。」

「分かった。では今夜決行だ。」

全く無駄のない作戦会議だった。

スタンは船を用意すると言って出て行った。

俺はユエルドにできるだけ光を吸収しておいてもらうように頼んだ。

後は夜を待つばかりだ。

 

 

暗闇の中、俺達は一槽の船の前にいた。

まだスクジェルが沢山いて乗り込めない。

スレイは俺とユエルドに、念のためと言って弓を渡してくれた。

そしてスレイも一緒に来ると言って、同じく弓を持ち、待っていた。

町の明かりは打ち合わせ通り全て消えているうえに、ユエルドの魔法で俺達の周りは暗闇に包まれている。

港の向こう側で明かりが灯った。

そして海面からスクジェルが徐々にいなくなっていった。

ここまでは予定通りだ。

 

船に乗り込んだ。

少なくなったとはいえ、やはり数匹飛び跳ねて来た。

それら全てを射抜いて、打ち落としながら進む。

アストリアの腕が更に上がっている。どこまで成長できるのだろう?

 

だいぶ沖まで来たところで港の明かりが消えた。

「よし、みんな気を引き締めろ。ユエルド明かりを!」

それまで闇に包まれていた船が光り出した。

海面の黒い影がこちらに迫ってくる。

「よし、消せ!」

さっと船が闇に飲まれる。

数匹が追い付き、飛び跳ねて来た。

その都度、俺達はスクジェルを撃ち落としていった。

実際は俺・ユエルド・スレイの3人分以上の働きをアストリア1人がしていた。

負けず嫌いな俺は何とかアストリアより撃ち落とそうと思うが、その動きに全く追い付けない。

まあ、アストリアが持っているのは『風の奇跡』だ。軽くて素早く撃つのに適している。俺だって『風の奇跡』を使えば……

いや、あの動きは無理か。

ともかく、この繰り返しでスクジェルを沖まで誘導していった。

「ハインツさん、この辺りで良いでしょう。これ以上出ると別の海の生物に遭遇しかねません。帰りましょう。」

「そうだな。」

海には未知の生物が多数いる。

プルプール王国では海の知識が浅いのだ。

だから今回の件でもスクジェルごときに手が出せないでいるのだ。

俺達が港まで戻ってくると見事にスクジェルの群れがいなくなっていた。

「作戦成功ですね。ハインツさん」

「さすがだ、ハインツ君。あれだけいたスクジェルの群れがほとんど居なくなっている。」

スレイもスタンも嬉しそうだ。

俺は頷いただけで答えなかった。これだけで解決できれば良いのだが。