心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

ぷるぷる大陸物語 第5話 ~寡黙な美食家の探求1~

f:id:hirozacchi:20190325212845j:plain

 

『ぷるぷる大陸物語』についての概要、キャラクター設定、第1話へのリンク等は、

『ぷるぷる大陸物語』-概要

をご覧ください。

f:id:hirozacchi:20190319213151p:plain

 

今回のターゲットはチェリートだ。

チェリートは足の速い動物なのだが、食べるととても美味しいとされている。

チェリートの肉は希少な事で知られていて、100グラムで1万リポ以上する高級肉だ。

俺は人生で1度しか食べた事が無いが、あまりの美味しさにチェリート狩り専門の魔術師になりたいと思ったほどだ。

なぜチェリートが希少で高級肉となっているのかというと、非魔術師には狩る事ができないとされているからだ。

足が速いだけなら、弓を使えば狩る事ができるのだが、チェリートは風の魔法を使う為、弓矢が通らないのだ。

魔術師でもその風魔法と足の速さに翻弄される為、なかなかチェリート狩り専門の魔術師は少ない。

チェリートを狩れる程の魔術師なら、わざわざ逃げ回り狩りにくいチェリートではなく別の魔獣を狩り高収入を得る方が楽なのだ。

このような理由がある為、俺はなんとかチェリートの安定供給を望んでいる。

いや、望みなどという軽い気持ちではない。俺の使命なのだ。

 


まずはサネアツの所へ弓を取りに行った。

「おい、前持って行ったボールと水風船の代金よこせ。2千リポだ。」

サネアツはいつも細かい。

「ウリリーの件でお前も儲けただろ?忘れろ。それより弓よこせ。」

「2千リポが先だ。あと弓は矢もセットで1万リポだ。」

サネアツは俺がウリリーの一件で収入を得た事を知っている。ツケは使えそうになかった。

しかたなく1万2千リポを渡した。

弓は一張しかなく、到底1万リポとは思えなかったが、適当に拾った。

「こんな棒きれが1万リポか?ボッタクリやがって」

捨てセリフを吐いて出て行った。

 

 

お気楽3人衆を呼び出しプルプール大森林へチェリート狩りに出かけて行った。

「ねえ、チェリートに弓は効かないんじゃない?」

トルキンエが訝しげに聞いてきた。

「今日狩る気は無い。ただチェリートの魔法をこの目で見たいだけだ。」

黙々と歩く事小一時間で、チェリートが生息する場所まで辿り着いた。

そこは少し開けていて草が生い茂っていた。チェリートはこの草を好んで食べる。

 

暫くするとチェリートが数頭やってきた。

自分の魔法に自信があるのか、それほど警戒している様子は無い。

少しの間、草を食べるのを観察して中央辺りに来た1頭に狙いを定めて弓を引いた。

次の瞬間、強風が吹いて弓は上空へ弾き飛ばされた。

一瞬の出来事だった。

風と共に草や木の葉が舞い視界が悪くなり、風が止む頃にはチェリートは居なくなっていた。

チェリートがいた辺りがもやもやと揺らめいていた。

「よし帰るか。」

俺はそれだけ言うとその場を後にした。

 

「俺たちは何の為に呼ばれたんだ?」

ユエルドは少し不満そうだ。ウリリーの時のような戦いを想像いていたのか?

やはり魔術師となった男は、闘争心が高いのかもしれない。

「お前たちは保険だ。役目が無い事は良い事だと思え。」

俺はそう切り捨てた。

 

 

街に戻りユエルドとトルキンエは酒場という野に帰して、俺はアストリアと共にプルニーの様子を見に行くことにした。部屋に入ると、プルニーが跳び回っていた。

怯えていた頃とは大違いだ。

俺はアストリアの手を握りプルニーに話しかけた。

『プルニー、仕事だ。』

『ふぇ?』

『魔法を覚えろ。』

『むりー。魔法使えないもーん。』

『あのな・・・これから覚えるんだよ。』

『えー?』

『水だ。水をイメージしてみろ。』

『みずってなにー?』

な、なに?

俺は水道からコップに水を汲んでプルニーにぶっかけた。

『これが水だ。』

「ちょっとハインツ。部屋汚さないでよ!」

「うるさい。汚していない。乾けばなんともないだろ。」

アストリアは膨れていたが無視だ。

『分かるか?』

『わかるー!あめー!』

雨か。まあ伝わったのならそれでいい。

『自分の体から水を出すイメージだ。やってみろ。』

プルニーは応えない。こいつなりに頑張っているのかもしれない。

暫く待ってみたが全く動きが無いので少し心配になってきた。

『大丈夫か?』

と言ったのと同時だった。

プルニーの頭上にプルが集中し、それは水に変わった。

ビシャッ!

その水はアストリアの顔に直撃した。

『すごいぞ!良くやった!』

「ハインツ?」

アストリアに呼ばれた気がしたので振り向いた途端、

 

パシッ

 

平手を食らった。

アストリアには、プルニーが魔法を使えた事の凄さは伝わらなかったらしい。

「もーもー!」

プルニーは初めて魔法を使えた嬉しさで部屋の中に水の魔法を撃ちまくり、アストリアはバケツを持って走り回っていた。

「楽しそうだな。その調子で頼む。」

計画は順調だ。