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ぷるぷる大陸物語 第3話 ~猪突猛進に終止符を2~

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『ぷるぷる大陸物語』についての概要、キャラクター設定、第1話へのリンク等は、

『ぷるぷる大陸物語』-概要

をご覧ください。

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初仕事では調査だけのつもりがウリリーとの闘いになってしまい、予想外に負傷してしまったが、俺としては非常に多くの収穫があり上機嫌だった。

 

結局、俺の怪我はプルプール大森林を抜けた後でトルキンエに治癒してもらった。

その事も含めて、トルキンエの性格を把握できた事も収穫の1つだ。

 

トルキンエは単純に魔力をケチっている訳ではないらしい。

冷酷に見えるがむしろ逆で、戦局を見て治癒すべき人を見極めているようだ。

トルキンエは酒場で出会った時に言っていたが、1日に治癒できる回数はせいぜい5~6回なのだろう。

その数少ない魔力をむやみに使えば、本当に必要な時に使えなくなるのだ。

俺が森を抜けるまで治癒してもらえなかった事でも良く分かる。

俺は治癒されなくてもまだ戦えた。だから『まだ』治癒は必要ないとトルキンエは判断したのだろう。そして森を抜けて安全を確保できれば、魔力が尽きようが問題ないと考えた。

実に効率的で俺好みだ。

 

物理的な収穫としては、今アストリアの手の中にいるプルプルだ。

ウリリーとの戦闘は想定外だったが、以前から注目していたプルプルを生きたまま捕獲でき、更に恩を売った訳だから懐かないはずがない。

こいつを育てて様々な魔法を覚えさせれば、いつか必ず役に立つと確信できた。

 

ユエルドの魔法を視る事ができたのも大きい。

最初は何が起きたのか分からなかったが、あの閃光はユエルドの魔法だ。

ユエルドは闇の魔術師なんかじゃない。光の魔術師だ。

周囲の光をプルに変え、結果的に夜は完全な闇を作り出しているのだろう。

昼間では確かに闇は作り出せないが、そのぶん力の源の光が満ちているのだ。

閃光を発する事の方が得意に決まっている。

しかし、それは恐らく奥の手なのだろう。誰にも手の内を知らせず、そして運よくその仕組みを周囲に悟られなければ、うやむやにできると考えているのかもしれない。

だが、それでも良いと思った。

とにかくユエルドの魔法の本質が分かった事で、色々な可能性を考える事ができる。

 

最後に、これが本当の目的だが、ウリリーの生態について色々分かった事がある。

やはり見ているだけより、実際に戦ってみると手に取るように動物の癖が分かる。

ウリリーは動く物や大きな音を出す物に反応する習性がある。

今回の一件だけではまだ十分な確証が得られていないが、恐らく生物か否かに関わらず動きがあり音を出す物であれば何でも反応するだろう。

食べる事もできないプルプルに反応して取り囲んだ事がそれを裏付けている。

突進する前には必ず後ろ足で足踏みをする癖があるようだ。

アストリアの呼びかけと足踏みが見事にリンクしていた。

これが分かれば非魔術師が運悪くウリリーと正面で向き合っても生き延びる可能性が高まるだろう。
更に弱点も見つけた。

体は厚い脂肪に覆われてナイフで突いてもビクともしないが、顔は木の棒で叩くだけで逃げ回るほどに弱い。特に眉間の辺りが良く効くらしい。

あと何度か戦ってみたいが、初期調査はこの程度で問題ないだろう。

たった1日、いや、たった1回の戦闘でこれだけの事が分かれば、かなり効率が良いと言えるだろう。

 


問題はユエルドとトルキンエの仲だ。

俺としては当人同士で勝手に決着を付けて欲しいところだが、それだと恐らくこの4人は解散する事になるだろう。

この4人は俺にとって理想的と思えるほどの人材が揃っている。できれば手放したくない。

「ユエルド、いつまでも怒ってないで機嫌直せ。」

正直、ユエルドさえ納得すればこの問題は解決すると思われる。

トルキンエは思ったより頭が切れる。目先の事に流されず、もっと全体を見通して全員が無事に帰還できる事を考えているのだろう。

「ふん。俺は元からこいつはやめとけと言ったはずだ。だいたい治癒が必要だったのはハインツ、お前だろう。腹が立たないのか?」

「まったく。むしろ感心している。」

「なぜだ?」

「俺が言っても推測になるだろう。トルキンエが言っても言い訳になるだろう。アストリアが説明してくれないか?」

心を読めるアストリアなら、全てを分かっているはずだ。そのアストリアがトルキンエをかばった事が何よりの証拠だ。

「良い?」

アストリアはトルキンエに申し訳なさそうに言った。

「なんでアストリアが申し訳なさそうなんだ?」

トルキンエの方が不思議そうだ。

「人の心を読むのは悪い事だと思うから。それを言ってしまうのは、みんな良い気分はしないのよ。」

「ははっ。私はそんなこと気にしないさ。」

確かに、トルキンエに隠し事は似合わない。

「それじゃ、言うわね。トルキンエの行動はみんなの事を考えての事なの。ハインツはあの時まだ戦えると判断したから、治癒をしなかった。そして私が悶絶していたら次のウリリーの動きを2人が知る事ができなくなると判断して私を治癒したの。全ての行動が4人全員の為になるように動いていたのよ。」

「そんなこと・・・」

ユエルドは面食らったようだ。

今までただのケチ女と思っていた相手がそこまで考えていたとは受け入れ難いのだろう。

確かにあれだけ酒臭い酔っ払いの姿を毎日見ていたら、俺自身もユエルドと同じ反応をしてしまっていたかもしれない。

「ユエルドの気持ちは分からなくもない。だが、トルキンエはともかくアストリアの魔法は信用しろ。」

「私はともかく、かよ。」

トルキンエは文句を言ったが、まんざらでもないようだ。

「心配するな。俺はお前を信じているし、これからも頼りにしたいと思っている。」

「ふんっ。」

そっぽを向いた顔が少し赤くなっている。

「『そんなこと初めて言われた』って」

アストリアが通訳する。

「ばか。そんな事言うんじゃねー!」

「え?え?気にしないって言ったのにー」

こっちの痴話喧嘩は放っておいて良さそうだ。

「まあ、そうゆう事だ。これからも頼むよ。」

俺はユエルドの肩をポンッと叩いてその場を後にした。

調査結果を資料化しないといけないのでね。