心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

ぷるぷる大陸物語 第13話 ~無機質な巨人2~

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夜が明けたので全員を叩き起こした。
もう朝の6時過ぎだ。
5時頃から明るかったというのに1時間以上遅れている。
暗いから危険だと判断したんだ。明るければ出発できるだろう。

黄龍団はさすがだ。明るくなる前に起きていて出発の準備が整っていた。
お気楽3人衆にも見習ってほしいものだ。
今はサネアツを含めてお気楽4人衆だったな。

ガーラはそんな俺達を見て、豪快に笑っていた。
何が可笑しい。笑い茸でも食ったんじゃないのか?

「トル~。ハインツ警報~。大嵐の予感ですぅ~」
「マジか~。アスなだめて~」
「むり~」
アストリアとトルキンエがヒソヒソとそんな事を言っている。丸聞こえだ。


俺達は黙々と山道を登った。
風の音と鳥のさえずり以外何も聞こえない。
王国の喧騒に慣れてしまったせいかとても静かに思えるが、やはり懐かしい。
木も鳥も、全てが見覚えのある風景だ。

森には独特な香りがある。この香りもまた、懐かしい。
山で育った俺達は、山の香りに敏感だ。
臭いが危険を知らせてくれるからだ。
動物の臭いを感じたら身を隠す。
湿り気のある風の臭いを感じたら豪雨に警戒する。
土の臭いを強く感じたら土砂崩れを警戒する。
今はその何れもなく、平和で落ち着く香りだった。

「ハインツ予報~。まもなく落ち着いてくるでしょぅ~」
俺で遊ぶな。暇なのか?
「ははっ。仲良くやってるようで何よりだ」
サネアツが保護者面しやがる。
俺達の故郷が大変だって言ってるんだぞ? まったく。


その日は何事も無く、明るいうちに中継として使っている黄龍団駐屯所に到着した。
駐屯所は女性の足で無理なく歩いても到着する場所に、等間隔で建てられている。

「ほらみろ。急がなくても明るいうちに着くじゃないか。明日から9時起きな」
トルキンエが緊張感の無い事を言っている。
「もしゴーレムに襲われたら逃げる事になるんだぞ? 通常よりも遅くなるだろう。どんなに早く出ても安心はできない。明日は4時起きしろ。5時に出発だ」
「ええ~。朝は苦手だ」
「今から寝ろ!」
「寝れるか!」
「ガーラ! 黄龍団の中に、人を眠らせる魔法を使える人はいないのか?」
俺はダメ元でガーラに聞いてみた。
「はっはっはっ、おりませんなっ」
だから何が可笑しい?

「おいサネアツ。頼みがある。×××を作ってくれ」
「うう、それで起こされるのか? 俺も朝は苦手なんだが」
サネアツは今から作る物の使い道を察して身震いした。
「全員4時起きすれば使わない」

翌朝、俺は言う通りに4時起きしない腑抜け4人組に向かってサネアツが作った道具を放り込んだ。
金属の箱の中に爆竹を入れただけの単純な道具だ。

ドバババババッ!

豪快な破裂音に全員跳び起きた。
さすがサネアツ。いつも良い道具を作る。
俺はこれを爆音目覚ましと名付けている。
ガーラはいつも通り豪快に笑っていた。
こっちは真剣なんだが。

「まだ暗いじゃないか。おやすみ」
トルキンエがまた布団に入ろうとしたので、もう一つ爆音目覚ましの準備を始めた。
「わっわっ、起きるって」
今日は順調だ。

特にゴーレムや動物に襲われる事も無く、順調に山を登った。
俺は記憶の無い親の事を考えていた。
プルプット村は俺が生まれ育った村だが、親はプルプット村の人間では無かった。
スタンにも指摘されたが、顔立ちからすぐに分かる。

どこから来たのかも言わぬまま両親とも死んだそうだ。
何かの目的があったらしいが、それすらも誰にも言わなかったそうだ。
ただ、プルプット村の技術にとても感心を示し、学んでいたらしい。
プルプット村では、魔法を使える者がほとんど生まれない。
今は1人だけいるが、それも弱い火を扱うだけで、村の明かりを灯す程度にしか使われていない。
余談だが俺が初めて他人の魔法を使ったのが、そいつの魔法だ。

ある日、村人が頻繁に魔獣と呼ばれる強い動物に襲われる事件が起こった。
当然村人では敵わず、王国兵士ですら手をこまねいていたらしい。
俺の両親は強い魔法を使う事ができた為、俺をサネアツの家に預け、2人で討伐にでかけた。
それっきり、魔獣も俺の両親も見つからなかった。
俺が生まれて1年も経たない日の出来事だった。

全て聞いた話だ。全く覚えていないので、それほど悲しいとは思わない。
むしろ不幸なのは、その後村を救った英雄の子として腫物のように扱われた事だ。
サネアツだけは口うるさかったが。


「今日こそゴーレムの残骸をお見せできますぞ」
3日目の朝、ガーラが笑いながら言った。
こいつはいつも笑っている。

ところが、昼頃になり岩の多い開けた場所に出た時、ガーラの笑顔が消えた。
「おかしいですな。確かにここにおったのですが」
一度もゴーレムを見た事が無い俺からしたらとても疑わしい事だが、嘘では無さそうだ。
もし嘘ならアストリアが見破っているはずだ。

「ゴーレムだ!」
黄龍団兵士の声だ。
振り返ると岩が起き上がって立っていた。
「ああ、おりました。あれです」
ガーラは武器を構えながら、豪快に笑った。
ガーラの武器はハンマーだ。剣では文字通り『刃』が立たないらしい。

「アストリア、ゴーレムは何考えてるか分かるか?」
「全然ダメ。ただの岩と同じで考えが伝わってこない」
本当に生物ではないのか?

ガーラはゴーレムに近づき、振り下ろされた腕のような岩を避けるとすかさずカウンターを食らわせた。
頭の辺りの岩にひびが入った。
直後にもう1つの腕が振り下ろされる。
ひらりとかわした。
ガーラの奴、体格に似合わず身軽だ。

ゴーレムの方は痛みを感じないのか、頭にひびが入った状態でなおも立っていた。
ゴーレムの後ろからハンマーを振り下ろす男が見えた。
黄龍団の1人が回り込んだのだ。

驚いた事にゴーレムは振り返りもせず、そのままの姿勢で後ろに腕となる岩を振り回した。
回り込んでいた男が跳ね飛ばされる。
前と後ろという概念もないのか?
良く見ると腕の部分は完全にはついておらず、浮いているようだ。

ガーラがゴーレムの足を狙った。
足はもろく崩れ、それと同時にゴーレムは体ごと崩れていった。
崩れるゴーレムに驚いたのか、ネズミが逃げていった。
崩れるゴーレムから逃れるように、そこにいたネズミが散っていった。

トルキンエが跳ね飛ばされた黄龍団の男に駆け寄った。
ゴーレムは動かない。
「ハインツ殿。これがゴーレムの残骸ですな」
「残骸じゃなくて動いていたじゃないか」
「どういう仕組みか、生き返るようですな。はっはっはっ」
「こんな時によく笑えるな。これ本当に大丈夫なのか? また動き出したりしないのか?」
「さあ、今までは崩れた後はしばらく動かんかったのですが、なんとも分かりませんな」
笑いながら頼りない事言うな。

俺はサネアツお手製爆音目覚ましを投げつけた。
爆音にも反応しない。確かに動かなそうだ。

近づいて調べてみるが、本当に何の変哲もない岩だった。
ゴーレムが動いていた時に、俺はゴーレムの体の周りにプルが覆われているのを見た。
それは地面から伸びているようだった。しかし、今はそのプルは無くなっている。
大地がゴーレムを動かしたようにも見える。
まさかとは思うが、この大地全体がゴーレムの本体という事なのだろうか?
しかし、今は大地にも当然プルは見えない。

俺が思い悩んでいるとサネアツも岩を調べ始めた。
黄龍団から借りたのか、手にはハンマーを持っていた。
そしてガンガン叩いて岩を砕いていく。

「確かに、ただの岩だな」
サネアツはそれでも色々と調べていた。
特によく調べていたのは、ゴーレムの腕や足と思われる岩と胴体と思われる岩の接合部分だ。
そこは俺も気になったところだ。
完全にくっついておらず、浮いているようだったからだ。
だからこそ、前も後ろも無く、回り込んだ兵士が不意を突かれたのだ。

そもそも、頭部と思われるところに目すら無い。
真ん中に1つの大きな岩があり、それが胴体のように見え、そこから4つの手足と思われる岩が添えられていただけだ。
生物と言うより、でかい操り人形だ。

いくら調べても今まで聞いていた事以外何も分からなかった。
しかし、ゴーレムの残骸が目の前にあるのだ。
何も分からないままではこの場を去れない。


1時間ほど調べただろうか。
俺とサネアツ以外のみんなは退屈したのか雑談をしていた。
「きゃー、また出た!」
アストリアの声だ。
アストリアが驚き、悲鳴を上げるのは実は珍しいのだ。
生物であれば近づいている事が分かるからだろう。

今回は1体じゃない。3体のゴーレムに囲まれた。
アストリアは思考を読み取れないと言っていたが、さっきの失敗を踏まえて対策したとでも言うのだろうか?

サネアツはハンマーを構えたままだ。
この状況はやばいな。
「トル、壁! アス、霧!」
俺は素早く2人に指示した。

俺達に一番近い1体のゴーレムの前に壁が現れ、辺りは霧に包まれた。
ユエルドは指示などせずとも幻影を作り出している。
俺達はゴーレムが幻影に気を取られているうちに、トルキンエの作った壁を盾にその場を後にした。

 

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『ぷるぷる大陸物語』についての概要、キャラクター設定、第1話へのリンク等は、

『ぷるぷる大陸物語』-概要

をご覧ください。

 

 

ぷるぷる大陸物語 第12話 〜無機質な巨人1〜

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だいぶ仕事も慣れてきて、スレイからも仕事をもらえるようになってきた。
実は俺達は、良くも悪くも魔法の基本から外れた魔術師なのだ。
落ちこぼれ酒場にはそのような魔術師が少なくない。

 


大陸流の魔法の基本とは『火・水・風・土』の4つの属性を基本としている。
『火』はその名の通り、炎を出す事ができる。
『水』は基本的に水を操るのだが、どちらかというと氷にして対象を攻撃する事が目的のように思える。
そして『風』は風を起こせば全て『風』の属性となるようだ。つまり以前狩りをしたチェリートは『風』属性とされいる。俺から見ると熱を発して上昇気流を作り出していたチェリートは『火』属性に見えるが誰も信じないだろう。
更に分からない属性が『土』だ。物質を動かす魔法を『土』とするらしい。プルを加工せずそのまま物質を持ち上げたり弾き飛ばしたりする。
大地を動かすから『土』ということなのだろうか?

 

ともかく、俺はこの大陸で言うところの魔法の基本は納得できていない。
これら『火・水・風・土』に属さないその他の魔法を『無』というらしい。
俺達の魔法がそうだ。
ユエルドも魔法の基本から言うと『光』属性ではなく『無』になるのだ。
そして『無』は無意味の『無』であり、直接攻撃できない魔法に価値を見出していない。
しかしいつかこのゴリ押しの魔法では限界が来るだろう。
スレイもそこに気付いた1人だったのだと思う。

 


「ハインツさん、武器手に入りましたよ。」
スレイはノックせず俺の家に入ってきた。お気楽3人衆を引き連れていた。
スクジェルの時、呼び出される事が嫌いだと言った俺の為に、俺のところへ皆が来るようになっていた。
俺が育った村にはノックをする習慣が無かったので、ノックはしないでくれと頼んでいた。
つまり俺の家をノックする奴は仲間ではないのだ。分かりやすい。

 

スレイが差し出した新しい短剣は、柄の部分に水晶が施されていた。
今まで使っていた短剣と同じ大きさで握り心地もぴったりだった。
何一つ文句の無い、完璧な仕上がりだ。

 

ユエルドも見慣れない杖を持っていた。
杖を含めて服も髪も全身真っ黒で、いかにも闇の魔術師だ。

「仕事の話もあるんです。今回の仕事はプルプット村付近からの依頼です。」
プルプット村は俺が生まれ育った村だ。
山の幸が多いが、そのぶん動物も沢山生息している。
危険な動物が出てどうしようもなくなると、村ごと場所を移動する事も珍しくない。
「どんな動物が出たんだ?」
生まれ育った村の事情を知っているだけに、それほど驚かなかった。スレイの言葉を聞くまでは。
「それが動物と言っていいのかどうか。ゴーレムが出たらしいです。」
「ちょっと意味が分からない。スレイの口からそんなおとぎ話のような事を聞かされるとは。」
「もちろん私も耳を疑いましたよ。でも王国兵士からは『岩でできた巨人に襲われた』、『まるでゴーレムの様だった』と報告を受けています。実際に魔術師が倒したそうですが、砕いても中身はただの岩だったそうですよ。」
「そんな事ってあるか?まあ、アストリアならそれが生物かどうか分かるかもしれないな。行ってみるか。」
みんなは当然行くつもりのようだ。

 


俺はもう1人誘いたいと言って、サネアツの家へ向かった。
サネアツもプルプット村出身なのだ。
「おい、サネアツ。里帰りしないか?」
「は?もう逃げ帰るのか?」
「仕事で行く事になった。この仕事が失敗したら村の位置が変わるぞ。」
「そりゃ困る。変わった後の場所は知っておきたいな。」
まだ失敗すると決まった訳では無いが。
ともかく、サネアツも同行する事になった。

 

「ハインツに友達が居たんだな。驚いた。」
トルキンエが本気で驚いている。全く失礼な奴だ。
「友達じゃない、ただの知り合いだ。」
ま、便利な奴だが。

 


プルプット村まではかなりの長旅になる。
プルピッタ山脈の麓に着くまででも1週間かかり、そこから更に5日山を登ったところに村がある。

 

と思っていたがスレイの奴が、また金持ち発言をしやがった。
「プルボードで山の麓まで行きましょう。」
「定期便は無いだろう?」
「大丈夫ですよ。山の麓までなら危険な動物もいませんし、お金さえ払えば送ってくれますよ。今回は緊急事態ですからね。」
歩くから、その金を俺にくれ。プルプット村の人間はそんなにやわじゃない。急ぐ必要もないだろう。

 

残念ながら、国の大きな圧力には勝てず、プルボードで山の麓まで行く事になった。
山の麓には王国兵士『黄龍団』が待っていた。
黄龍団はプルピッタ山脈を管轄とする王国兵士団だ。
黄色を基調とした制服で、山のエンブレムを付けている。

 

王国の西、プルプール大森林を管轄とする『緑龍団』
王国の東、プルスーラ平原を管轄とする『青龍団』
王国の南、プルカラ砂漠を管轄とする『赤龍団』
王国の北、プルピッタ山脈を管轄とする『黄龍団』
これら4つの団を色団と呼び、幼龍団で訓練を終えると色団の何れかに所属する事になる。
つまり黄龍団は幼龍団とは違い、一人前の王国兵士の部隊という事になる。
余談だが、赤龍団と黄龍団は色を入れ替えてた過去がある。
黄色い制服を着て砂漠を歩くと、遭難時見つけにくいという理由だったらしい。
俺のように山で育った者としては、赤でも黄色でも変わらないと思うのだが砂漠は違うようだ。

 

日が落ちて辺りは薄暗くなってきている。
送ってくれたプルボードは誰も乗せず、元来た道を戻っていった。

 

駐屯所からいかにも山の漢と思わせる大柄な王国兵士がやってきた。
「黄龍団兵士長のガーラと申す者です。ご足労感謝!」
「王国の役所から来ました。スレイです。聞き馴染みが無いかもしれませんが、生物調査係という部署に勤めています。こちらは魔術師のハインツさんご一行です。」
「話は聞いておりますよ。プルパールでは大活躍だったそうで。」
ガーラはそう言うと豪快に笑った。
「早速ですが、ゴーレムについて詳しく教えてください。できればガーラさん個人の意見も聞きたいです。」
「ん、ああ。子供みたいな報告で申し訳ありませぬ。私自身、あれが何なのか分かっておらんのです。突然そこらに転がっていた岩が起き上がったと思ったら襲ってくる次第で。あまり素早く動けないらしく逃げる事ができるのですが、逃げた後戻ってみるとその岩はもう動かんのです。砕いてみてもただの岩のようで。その為、我々は生物とは考えておりませぬ。」

倒すだけでなく、逃げ切ってもただの岩に戻るのか。謎が深まっただけだ。
あまりに現実離れした話にスレイまで沈黙している。
「まあ、幸い動きが遅いので逃げれば被害はありませぬ。プルプット村が襲われた時の為に、今はゴーレムが出現しない別の場所を探しておるのです。」
既に村ごと移動する前提か。
プルプット村の民族は何度となく危険動物に襲われては移動してきた。その歴史から考えると当然の判断だし、移動も慣れたものだ。
ただ、いくら慣れていると言っても、住み慣れた土地を手放すのは大変な事に変わりない。

「そのゴーレムだった岩を見たい。案内してくれ。」
「もちろんそのつもりで。ただ一番近くてもここから3日はかかりますゆえ、今日は休まれてはいかがかと。」
「いや、今から出発しよう。」
「ちょっとハインツ、落ち着いて。気持ちは分かるけれど、今日は休みましょ?」
「アスの言う通りだ。私はここで寝るぞ。」
トルキンエが駐屯所にずかずかと入っていった。
「トル~、待ってよ~」

 

・・・そうだ。プルプット村の人間はそんなにやわじゃない。大丈夫だ。

実際に見た人の証言を聞いて、冷静さを失った事に気付いた。
生物なのかどうかさえ分からない存在が、俺の故郷を脅かそうとしている。
分からない事が恐怖を掻き立てるのだ。

 

「まあ、焦っても解決しねーよ。今日は休むぞ。」
サネアツが分かったような事を言う。
「生き物じゃなかったら、お前担当だからな!覚えとけよ!」
サネアツが作った道楽だったらどんなに楽だろう。

 

そんな中、ユエルドだけが一歩も動かなかった。
俺が頑なに出発すると言えば、恐らく何も言わずについてくるつもりなのだろう。
そんなユエルドに危うさを感じた。

前に俺の事をリーダーだと言ったのを思い出した。もう年齢は関係ない。
俺の一瞬の判断ミスで仲間まで危険になる。
「今日は休もう。」
ユエルドに聞こえるように、そして自分に言い聞かせるように、静かに宣言した。
スレイとガーラも安心したように頷いた。

 

 

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ぷるぷる大陸物語 第11話 ~プルニーのお願い~

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プルパール港町を朝日が照らす。

確実に仕事をやりきった爽快感で、すがすがしい気分だ。

 

スレイを含めた5人が集まった。


「お前に渡すものがある。受け取れ。」
俺は前もって買っておいた大きな袋をアストリアに手渡した。
「え?え?私に?」
アストリアが戸惑いながら受け取った。
袋はガシャリと音を立てた。
「お?プレゼントか?良いね~」
トルキンエが茶化すが、特に間違いではない。
「お前が女には優しくしろと言ったんだ。」
アストリアが欲しいだろうと思う物を考えたつもりだ。
アストリアとトルキンエが袋の中身を覗き込む。

 

一瞬の沈黙の後、トルキンエが笑い出した。
「あはは、はっはっはっ、ハインツらしいプレゼントだなっ」
何が可笑しい?それなりに高かったんだぞ。
スレイも覗き込んで「あっ」と驚いた。スレイは俺の味方だよな?

「ハインツさん、今回の一件でハインツさん達は支度金を事前に請求できるようになりました。その矢も請求してくれたら王国からの支給品になりますよ。」
「おお、良かった。矢って結構高いのな。20本で1万リポもしたんだ。後で請求しておく。」
「おい、もしかして女に矢を贈ったのか?」
ユエルドが呆れた目で俺を見た。
「ああ、前に弓をあげたら機嫌が直ったからな。次は矢だろう?」
「ぶっ、はははっはは、おなか痛い。」
トルキンエは盛大に笑うし、ユエルドは冷たいし、言う通りに女に優しくしたのにこの仕打ちとは。
「えっと、あの、ありがとう。」
アストリアは戸惑ったままだった。

「あのね、ハインツ。プルニーがハインツに話があるんだって。」
そう言って俺の手を握った。

 

『アスだけずるいー。』
アス?アストリアの事か。
『プルニーも魔法覚えた。風も霧も出せるようになったよ!ごほーび欲しいー!』
『おお!凄いじゃないか、もう覚えたのか!?何が欲しい?』
『えっと、欲しい物はないよー。』
『そうなのか?食べたいものとか無いのか?』
『食べ物ー?わかんない。それより、追いかけっこしたいな。プルニー逃げるからみんな追いかけてっ』
遊びたいのな。俺は昔アストリアの家に行った時にプルニーが1人で飛び跳ねていたのを思い出した。結構速い。
『よし分かった。後でやろう。』
『今がいい!』
『少し待て、やるからには本気でやってやる。楽しみに待っておけ。』
『わ~い』
追いかけっこか。色々と新しい魔法も思いついたし皆で集まってやろうと思った。

 

「そうそう、前から気になっていたんですが、魔法使いにとって杖ってどんな意味があるんですか?トルキンエさん以外杖を持っていないようですが。」
「俺は知らん。」
スレイの問いに俺は答える事ができなかった。
というのも、俺が育った村には魔術師は1人しかおらず、その人は杖を使っていなかった。だから俺も聞きたいと思っていた。
「なんだハインツ、魔術師なのに知らないのか?これは使っているとだんだんその人に馴染んで魔力が高まるものなんだよ。」
トルキンエが得意げに答えてくれた。
確かに良く見るとトルキンエを覆うプルは、手に持った杖まで伸びている。

「じゃあ、他のお三方もあったら便利ですか?せっかくなので支給しましょうか?」
「それは有難いが、俺は闇に紛れたい。杖は目立つから邪魔なんだ。」
ユエルドは苦笑いした。
「真っ黒な杖があったら欲しいですか?」
「そんな杖があったら欲しい。」
「探しておきます。」
頷いて、次はアストリアを見た。
「私は弓があるから平気です。この弓は特別な弓なので杖と同じように使っていたら魔力も高まります。」
きっぱりと言い切った。へえ、そんなものなのか。
「ハインツさん、杖欲しくなりました?」
スレイが最後に魔術師初心者の俺に尋ねた。
「俺は短剣の方が性にあってるんだが。その長い棒は邪魔くさい。」
「じゃあ、魔法を込められる短剣を作ってもらえよ。水晶を施せば杖じゃなくても魔力は高まるぞ。」
トルキンエの言葉に、ユエルドも横で頷いている。
そ、そうだったのか。

 


プルパール港町を出ようとしたところで、幼龍団が整列していた。
「町の英雄に敬礼!」
突如スタンの声が聞こえた。
「おい、何の騒ぎだ?お偉いさんでも来るのか?」
「いやいや、ハインツ君たちを送り出したいと皆が言うのでね。今回君たちが来る前から何人もの負傷者が出ていたんだ。感謝の気持ちだよ。」
「そうか、むしろ俺達が世話になったと思うが。こちらこそ、ありがとな!」
そう言って、敬礼した。お気楽3人衆とスレイも敬礼した。
敬礼の作法は知らないが、気持ちは伝わるだろう。

 


帰りのプルボードで俺は考えていた。
「今回の懸賞金は100万リポだったなよな。」
「ああ、そうだな。」
この話に真っ先に飛びついたトルキンエも歯切れが悪い。
俺達だけで解決したとは言い切れない事を、何となくみんなが感じているのだ。
「俺達はそれぞれ10万リポで十分だろ。残りの60万リポは幼龍団が受け取るべきだと思う。」
「そうだな。」
今回一番の功労者のユエルドが同意した。
「良いんですか?」
スレイの問いに皆が頷いた。
「それよりも、気になったのはこの国に海兵が居ない事だな。たかがスクジェルでこんなに苦戦するのも海の戦い方を知っている王国兵士が居ないからだろう?」
「なるほど。確かにそうですね。考えておきます。」


プルプール王国に着いてスレイと別れてから、皆が解散しようとするのを呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。これから追いかけっこをする。皆本気で挑むように。」
俺は神妙な面持ちで、重要な事を告げるように、遊びを提案した。
「気でも狂ったか?私はパスだ。」
トルキンエが連れない。
「待って、プルニーのお願いなの。」
アストリアが通訳する。
「プルニーも色々頑張ってるの。だから、少しだけプルニーと遊んであげて。」
「悪いが俺は遊びと思ってない。本気で挑めないなら帰ってもらって構わないぞ。」
俺はあくまで本気だ。やるからには手を抜かない。
「あーもうっ。ハインツは説明が下手過ぎ。プルニーが遊びたがってるのよ。ハインツこそ帰れば!?」
「なっなんだと?俺は色々と作戦を考えてだな…」
「遊びにそういうの要らないから。」
「はははっ。仲いいな。2人でやったら良いのに。」
「そうだな。俺は酒場で飲んでる方が性に合ってる。」
「2人とも待て。新しい魔法を考えたんだ。この追いかけっこでそれを試せたら一石二鳥だろ?やろうぜ、本気で!」
「追いかけっこには興味ないが、新しい魔法には興味あるな。良いだろう。」
「しかたねーな。んじゃ、ちょっとだけだぞ。」
よし、やっと連れた。プルニーも嬉しそうだ。

 


前にアストリアと弓の練習をした広場に移動した。
「皆どんな魔法を使っても構わない。実力を知りたいからな。まずはトルキンエに魔法を教えるからアストリアとユエルドが追いかけてくれ。始めっ」
プルニーが逃げ始めた。当然2人は追いつけない。

「さて、トルキンエ。お前の魔法を単純に説明するぞ。」
「いや、知ってるけど?」
トルキンエは何を今更、と言う感じだ。
「お前の魔法の本質は、実は治癒魔法とは違う所にある。毒を治せない事もそれが原因だ。」
「そうなのか?私は頑張ったらできるようになると思っていたんだが。」
「お前は、プルを物質に変化させる魔法なんだ。人の傷口をプルを使って埋めて元通りにしているんだ。だから腕を失った人でも治せるだろう?」
「ああ、凄い魔力を使うけどな。」
「試しにこの何もない空間に石とか出してみろ。」
「そんな簡単に言うな。だいたいプルってなんだよ。」
「前にスレイと話している時に説明しただろ、魔法の素みたいなもんだ。とりあえず、岩っぽい生物を思い浮かべて、その一部を治すイメージはどうだ?」
「はぁ?」
少し悩んでいたが、ポンッと石が出てきた。
「結構簡単だろ?」
「ああ、しかもそれほど魔力が要らない。」
「そうか。実はお前は治癒している時は神経使うから、魔力が減るというより精神的にすり減ってるだけなのかもな。」
「そんなもんかねー」
「よし、その魔法でプルニーの行く手を塞ぐんだっ!」
どんな手を使っても、俺は追いかけっこで勝つ。
『アストリア戻れ、俺達にプルニーの行動を伝えろ。』

その後は、プルニーがトルキンエの出す壁を避けて、避けた先に俺かユエルドが待ち構えた。
プルニーが何度目か風の魔法で上へ逃げた時、トルキンエが上に壁を作っていた。

べちゃ

といって、プルニーが落ちてきたところを俺が捕まえた。
「大丈夫か?」
トルキンエがすかさず治癒した。こいつはすぐ帰れる場所でなら魔法を惜しまない。
『俺の勝ちだな。』
プルニーが起き上がったのでアストリアの手を握り、勝ちを宣言した。
『もう一回!』
『まあ待て。次はユエルドの魔法を完成させたい。霧を出してくれ。』
『わかったっ』
素直で良い子だ。
すぐに辺りが霧で包まれた。

「ユエルド、この霧に光を当ててくれ。」
ユエルドは不思議そうに、それでも言う通りにした。
「光の色とか形は変えられるか?」
「ある程度ならな。」
「俺達そっくりに作ってみてくれ。」
徐々に人の形に変化して、そしてその光は俺達4人にそっくりになった。
「おお、予想以上だ。これならこれから先、動物の目も惑わせるな。」
「でも、いくらそっくりとは言え、幻影だろ?トルキンエの魔法でそっくりに作ったら良いんじゃないのか?」
「それは言うな。」
俺はそれは禁句だと思った。
ユエルドがトルキンエを見ているので、トルキンエもその気になってしまった。

そして、出した岩は星形のとても人とは思えない形だった。
「これのどこが人なんだ?」
ユエルドが不思議そうな顔をした。
どれか2つの突起が足で、別の2つが腕で、残りの1つが頭のつもりだろう。
「気付けユエルド。例え魔法が使えても画力は別の能力なんだ。」
言ったとたん、トルキンエに殴られた。

俺じゃなくてユエルドを殴れよ。俺はなんとなく気付いたからトルキンエには求めなかったのに。

トルキンエは人の傷を治す時、プルからバラバラな状態の細胞を対象に与えているに過ぎない。それを取り込んで治すのは、対象の自己治癒力に頼っているのだ。
それとは違い自分のイメージだけで物を作るとなると、上手くいかないようだ。
こればっかりは、その人の才能だ。
まあ、2人とも新しい魔法を覚えたようで何よりだ。

 

その後しばらく追いかけっこをしてプルニーを楽しませた。
もちろん全部俺達が勝ったのは言うまでもない。

 

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ぷるぷる大陸物語 第10話 ~漁師の天敵3(終)~

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翌日の昼間、念のため海を見に行ったが、スクジェルは居なかった。

俺の思い過ごしか。

俺は、いったん沖に移動しても戻ってきてしまうのではないかと思っていた。

まあ、戻ってこないならそれは良い事だ。


俺達は帰り支度を始めた。

俺は武器屋へ寄った。矢を買う為だ。昨日かなりの矢を消費したからな。

貧乏性な俺は甲板に落ちた矢は再利用したが、それでも十数本は海に落ちてしまった。

俺は1万リポ払って20本の矢を買った。

これだけあれば十分だろう。

それよりも、俺はサネアツから買った弓の値段を思い出していた。

サネアツは弓と矢セットで1万リポと言っていたが、矢の値段だけで、弓はタダで譲られたのだ。

粋な事しやがって。


「海の幸が食べたい。」

帰ろうと思い全員を集めたところで、アストリアがダダをこねた。

確かに、せっかくのプルパール港町なのに、俺達は一度も海の幸を口にしていない。

プルプール王国で獲れた肉を保存用に干したものや、穀物ばかり食べていた。


「スクジェルの被害があったんだ。仕方ないだろう。」

俺はアストリアをなだめた。無いものは仕方ない。

「ハインツさん。もう一晩泊っていきませんか?今漁に出ていますから、今晩食べられるようにしておきますよ。」

「やった~。さすがスレイさんね。物分かりが良い!」

『これが気遣いができる人の行動よ?』

アストリアが俺にだけ嫌味を言った。

俺は当たり前の事実を言っただけなのだが。

それに、金の無い俺達はスレイの金で泊っている。

まあ、スレイも王国から出してもらっているのだろうが、どちらにしても、もう1泊できるかどうかはスレイ次第だ。俺に権限は無い。

まあ、海の幸を食べられるなら文句はない。

俺は海を眺めながら夜を待つことにした。

 

「黄昏れてるの?」

いつの間にかアストリアが隣に座っていた。

「そんなんじゃない、どうも気になってな。お前は海の幸が待ちきれなくなったのか?」

「えっ!?」

「図星か。スレイが予約してくれているんだ。こんなところで待たなくても海の幸は逃げないぞ。」

「そ、そんなんじゃない!えーと、どうにも気になってな!」

「真似するな。」

「もうっ、海の幸以外に何が気になるのよ。」

「なんとなく、スクジェルが戻ってきてしまう気がしてな。思い過ごしならいいんだが。」

「大丈夫よっ。私の食べ物しか戻ってこないわ!」

その自信はどこから来るのだろう?

まあ、俺もそう願いたい。


辺りが薄暗くなった頃、俺の悪い予感は的中した。

俺は宿に走った。アストリアが遅れてついてくる。

「スレイ、居るか!?大変だ!」

「どうしました?もうすぐ予約の時間ですよ。」

「残念ながらそれどころじゃない。スクジェルが戻ってきた。町の明かりに寄ってきたのだろう。」

「そんな!」

「スタンはどこだ?もう一度力を借りたい。」

「王国兵士駐屯所にいるはずです。」

「わかった。みんなを呼び集めてからそこへ向かう。スレイは先に状況報告しておいてくれ。」

「承知しました。じゃあ、駐屯所で!」


お気楽3人衆を集めて、駐屯所に向かうと険しい表情のスタンが立って待っていた。

「話は聞いたよ。幼龍団の者も見たらしい。本当なら我々が対処すべきだが、もう一度力を貸して欲しい。」

スタンが頭を下げた。本当なら俺達4人とスレイとスタンでこれから食事のはずだったのだ。

スタンは何も悪くない。

「それは俺のセリフだ。完璧に駆除できなかった俺の責任だ。実は今日の昼間から胸騒ぎがしていたんだ。」

「そうか。作戦はあるか?できれば早くしたい。実は漁に出た一般人の船が1艘帰ってきていないんだ。」

「分かった。作戦はある。時間が無いから手短に言うぞ。今回は王国兵士にも海に出てもらいたい。海へ出る方法は昨日と同じ方法で。それぞれの船にできるだけ大きな鏡を持たせて欲しい。俺達が魔法でそれぞれの船を照らすから鏡で光を海に向けるんだ。10艘くらいにスクジェルを分散させてすくい上げる。」

「それはタイマツで照らしてはまずいのか?」

「まずいな。昨日誘導した感じでは、消すタイミングと点けるタイミングがかなりシビアだ。少しでも遅れるとスクジェルに襲われるぞ。」

「そうか、分かった。考えている時間が惜しい。やるか!」


昨日に引き続き、町は明かりを消して闇に包まれた。

対岸に火が灯った。

まずはそれぞれの船に大きな鏡が運び込まれた。

俺達の船に鏡は要らないのでさっと飛び乗り出航した。


俺達の船を含めて11艘。

10艘の船が俺達を取り囲むように等間隔で並んだ。

「ユエルド。それぞれの船を時計回りに照らしていくんだ。」

ユエルドは頷いて1艘の船を照らし、鏡で反射して海面を照らした。

海面の黒い影がその船に近づくのが分かる。

頃合いを見計らって次の船を照らす。

昨日まで経験でスクジェルは暗くなると比較的大人しく危険が無い事が分かっていた。光で誘導だけしたら真っ暗なところですくい上げれば被害は少ないだろう。

それぞれの船に群がったスクジェルを幼龍団がすくい始めた。

思った以上に数が多く、10艘ではすくい切れないかと思った時、港から別の10艘の船が近づいてきた。

今までいた船は港へ帰ってゆく。交代か。

暗闇の中、スムーズに交代していく。素晴らしく訓練されている。

この交代を4度ほど行った頃、海面の黒い影もだいぶ少なくなっていた。

そろそろ一般の船を誘導しても良いだろう。

「おいハインツ。そろそろ魔法が切れる。」

ユエルドには昼間念のため光を吸収しておいてもらったが、確かに吸収した時間と使える時間を考えるとそろそろ切れてもおかしくない。

「分かった。もう十分だろう。これで終わろう。」

俺はあらかじめ渡されていた角笛を吹いた。

これが終了の合図らしい。

無事を確認した後、一般の船が港へ行き、その後俺達も港へ帰った。


港へ戻ると数人負傷者が出ていた。

トルキンエが駆け寄り、処置していく。消毒は魔法ではなく薬を使っている。

トルキンエの魔法は傷を治すだけで、毒を抜く事はできないようだ。

それでも処置するとは、やはり苦しんでいる人を放ってはおけない性格なのだろう。

「スレイ。今使った薬代1万リポで良いからな。」

しっかり金を請求していた。これが冷たいと誤解される原因なのだ。

しかし、誤解されやすい性格じゃなかったら、絶対に落ちこぼれ酒場にはいなかっただろうと思うと、トルキンエの性格もありがたい限りだ。


結局その日も海の幸にありつけず、翌日を迎えた。

俺は疲れ切って昼まで寝ていた。

目が覚めて部屋を出てみるとみんな集まっていた。

「ハインツさん、おはようございます。これどうぞ!」

そう言って差し出されたのは、生魚の切り身だった。

俺はそれを手づかみで食った。

色々と苦戦したが、今度こそ大丈夫だ。

新鮮な魚の味は、俺の不安を綺麗に消し去った。

 

「よし、帰るか!」

「え?昨日行けなかった店を予約しなおしましたよ。もう一晩泊りましょう。」

『き・づ・か・い!』

スレイが言い終わらないうちにアストリアの心の声が聞こえてきた。

もう海の幸は食べたじゃないか。

『それとこれとは別なのよ。』

わからん。


俺は1人で海を見に行ってみた。

スタンが幼龍団に指示を出していた。

「スタン。昨日は助かった。そっちの負傷者は無事か?」

「ああ、ハインツ君。君の仲間のおかげでみんな元気だよ。もうスクジェルもだいぶ減ったから、もうひと頑張りしているところだ。」

そう言って指さした先には、スクジェルの山ができていた。磯臭いと思ったらこれのせいか。

「もう1泊する事になった。夜まで手伝おう。」

俺は幼龍団にまじって、船から上がってきたスクジェルを山に積み上げるだけの作業を淡々とこなした。

スタンは休んでおけと言ったが、幼龍団は昨日も今日もずっと働いているのだ。昼まで寝てしまっただけでも申し訳ない。

こんな時、自分の魔法が役に立たない事が恨めしい。


そして夜、俺達はスレイが予約した店へ行ってみた。

かなり豪華な店だった。どうせ代金はスレイ持ちだから良いが、高いんじゃないのか?

女2人は嬉しそうにはしゃいでいた。

スタンも到着した。

「やっと落ち着いて話ができるな、ハインツ君。」

「まあ、用が無ければ話す事も無いだろう。俺達が話す事が無いという事は平和で良い事だと思うぞ。」

「はっはっ。そうだな。平和は良い事だ。」

お気楽3人衆は黙って聞いている。皆賛同しているようだ。

『違うわよ!緊張してるの!』
アストリアのツッコミは緊張しているように思えないが。

「ハインツ君、出身は?」

「プルプット村だ。山奥にある小さな村だ。」

「へえ。そうは見えないな。プルプット村の男は四角い顔ばかりだと思っていたよ。」

「ああ、確かにあの村はみんな四角い顔だったな。俺の親はあの村出身じゃないらしい。俺が物心つく前に死んだから詳しくは知らないが。」

「これは失礼。話を変えよう。スレイ、なんで王国兵士を辞めたんだ?」

「叔父さん、もうその話は何度もしたでしょう。」

「お前、王国兵士だったのか。ただの役人にしては良い動きすると思っていたが、なんで辞めたんだ?」

「ハインツさんまで!?じゃ、説明しますよ。今のプルプール王国は問題が起きてもその場限りの対応しかできていないんです。もっときちんと対策を練れば被害は減ると思うんです。役人になって、もっと制度を作りたいんですよ。」

「もったいない。お前なら飛龍団の兵士長も夢じゃなかったのに。」

スタンは渋い顔をした。

飛龍団というのは、地龍団と並ぶ王国兵士のエリート集団の事だ。

黒い制服で龍のエンブレムを付けている。子供たちの憧れでもある。

遊撃部隊とも呼ばれ、大陸全土を飛び回っている。

地龍団は近衛兵として王国を守るのに対し、飛龍団は大陸全土を守る集団なのだ。

そして兵士長には代々『龍の奇跡』という剣が受け継がれている。

一度で良いから『龍の奇跡』を振るってみたいと思うのは、漢の性だろうか。

「それでもです。飛龍団に入ったらそれこそ、その場限りの問題解決に追われてしまいます。はっきり言いますが、今回の件は例え飛龍団が来ても解決できなかったと思いますよ?そしてハインツさんの実力は私にしか見抜けなかったと自負しています。」

「むぅ。確かに、我々も手を出せなかった問題をたった3日で解決した事は凄い偉業だ。」

つまらない話になってきたので、俺は黙々と海の幸を堪能した。

 

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ぷるぷる大陸物語 第9話 ~漁師の天敵2~

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その夜、港へ行ってみた。

スタンの姿は無かったが、顔パスで警備を解いてくれた。

 

相変わらずスクジェルは大量にいたが、昼間に比べると数が減っているように見える。

アストリアの手を握り集中してみた。

何かが昼間と違った。

昼間の興奮状態が冷めたのか、随分と大人しい。

「ユエルド、海面を照らしてみてくれ。」

「一応、奥の手なんだ。むやみに使わせないでくれ。」

そうぼやきつつも、素直に従った。

本当に年下の俺をリーダーだと思っているのか。ありがたい。

「心配しなくても、そのうち別の奥の手を考えておく。」

俺はそう付け加えておいた。

海面が照らされた途端、スクジェルが光に引き寄せられるように集まり昼間と同じように興奮状態になった。

光が関係しているのか?

「逆に暗くしてくれ。」

突然辺りが暗闇に包まれた。器用なものだ。月明かりすら見えない。

スクジェルはというと、面白いように落ち着きを取り戻している。

「スレイ、色々と分かった。明日作戦を立てよう。スタンに会えるか?」

「ええ、もちろん。叔父さんの力が必要なんですね?その作戦、私は今知りたいです。」

「まあ、隠す必要もないから言っておこう。スクジェルは光に集まる習性がありそうなんだ。明日の夜このスクジェルの群れを避けて沖まで船を出して欲しい。そこで俺達が光を使って集めるから、街の光は全て消して欲しい。王国兵士の総司令官ならできるだろう?」

「なるほど、それは確かに叔父さんの力が必要ですね。明日会えるように言っておきます。」

「お前は今日会えるのか?それならお前から作戦を伝えておいてくれ。俺はスクジェルを避けて船を出せる場所を探しておく。」

「分かりました。船を出せる場所も叔父さんの方が詳しいですから、ハインツさんは明日に備えて休んでおいてください。」

「そうか。じゃ、よろしく頼む。」

 

宿に戻り、俺は考えていた。

もしアストリアやユエルドがいなければ、調査もできなかった。

もしスレイがいなければ、この作戦は机上の空論だ。

本当に俺は仲間に恵まれた。

女には優しく、か。

急にユエルドとトルキンエの言葉を思い出した。

何か買ってやるか。

布団の中で意識が遠のく中、かすかにそう思ったのを覚えている。

 

 

「ハインツさーん。居ますか?今良いですかー?」

朝からスレイの元気な声が聞こえてくる。

「朝から元気だな。」

扉を開けながら言った。

昨日は夜遅くにスクジェルを見に行ったので、遅めの朝食を食べていたところだった。せっかくプルパール港町に来たのにスクジェル被害のせいで魚介類が全くない朝食だ。

「お、食事中だったか。出直そうか?」

スタンも一緒だった。もう話がついているのだろうか?

「いや、作戦について話したいと思っていたところだ。みんなを集める。」

 

ユエルド以外は全員起きていた。

ユエルドは魔法の性質上、夜に行動する事が多く、自然と夜型になったのだろう。とても眠そうだ。

「さっそくだが、作戦はスレイから全部聞いた。町の明かりの件は任せろ。今、幼龍団が全ての家に伝令している。船の件はちょっと厄介だ。今のところ船を出せそうな場所は無い。」

「それなら俺に考えがある。港の片方の端だけ明かりを付けてスクジェルを集めておいてくれ。反対側から船を出す。船が沖まで行ったら明かりを消してくれ。後は俺達がスクジェルを沖に誘導する。」

「分かった。では今夜決行だ。」

全く無駄のない作戦会議だった。

スタンは船を用意すると言って出て行った。

俺はユエルドにできるだけ光を吸収しておいてもらうように頼んだ。

後は夜を待つばかりだ。

 

 

暗闇の中、俺達は一槽の船の前にいた。

まだスクジェルが沢山いて乗り込めない。

スレイは俺とユエルドに、念のためと言って弓を渡してくれた。

そしてスレイも一緒に来ると言って、同じく弓を持ち、待っていた。

町の明かりは打ち合わせ通り全て消えているうえに、ユエルドの魔法で俺達の周りは暗闇に包まれている。

港の向こう側で明かりが灯った。

そして海面からスクジェルが徐々にいなくなっていった。

ここまでは予定通りだ。

 

船に乗り込んだ。

少なくなったとはいえ、やはり数匹飛び跳ねて来た。

それら全てを射抜いて、打ち落としながら進む。

アストリアの腕が更に上がっている。どこまで成長できるのだろう?

 

だいぶ沖まで来たところで港の明かりが消えた。

「よし、みんな気を引き締めろ。ユエルド明かりを!」

それまで闇に包まれていた船が光り出した。

海面の黒い影がこちらに迫ってくる。

「よし、消せ!」

さっと船が闇に飲まれる。

数匹が追い付き、飛び跳ねて来た。

その都度、俺達はスクジェルを撃ち落としていった。

実際は俺・ユエルド・スレイの3人分以上の働きをアストリア1人がしていた。

負けず嫌いな俺は何とかアストリアより撃ち落とそうと思うが、その動きに全く追い付けない。

まあ、アストリアが持っているのは『風の奇跡』だ。軽くて素早く撃つのに適している。俺だって『風の奇跡』を使えば……

いや、あの動きは無理か。

ともかく、この繰り返しでスクジェルを沖まで誘導していった。

「ハインツさん、この辺りで良いでしょう。これ以上出ると別の海の生物に遭遇しかねません。帰りましょう。」

「そうだな。」

海には未知の生物が多数いる。

プルプール王国では海の知識が浅いのだ。

だから今回の件でもスクジェルごときに手が出せないでいるのだ。

俺達が港まで戻ってくると見事にスクジェルの群れがいなくなっていた。

「作戦成功ですね。ハインツさん」

「さすがだ、ハインツ君。あれだけいたスクジェルの群れがほとんど居なくなっている。」

スレイもスタンも嬉しそうだ。

俺は頷いただけで答えなかった。これだけで解決できれば良いのだが。

 

 

 

ぷるぷる大陸物語 第8話 ~漁師の天敵1~

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ある日、俺はスレイから呼び出しを受けたので、お気楽3人衆と共に役所へ向かった。

俺を呼び出すとは、なかなか良い度胸をしている。・・・と思ったが、俺は無名の魔術師、相手は役人だから当然か?

 

「やあハインツさん、良く来てくれました。」

「用があるならそっちから来い。」

俺は呼び出された不機嫌さを隠さず、できるだけぶっきら棒に言ってやった。

「ちょっとハインツ。失礼よ。」

アストリアがまともな事を言う。俺は余計不機嫌になった。

「これは失礼しました。良い話なので早くお伝えしたくて。今度からは伺いますね。」

「良い話?」

俺は少し機嫌が直った。

「はい、実は今プルパール港町でスクジェルという生き物が大量発生し、大きな被害が出ているのです。王国兵士や手練れの魔術師たちが対応しているのですが、全く効果が無く、打つ手なしの状態なのです。この状態が続けば、漁師は海に出られず、我が国民は海産物を手にする事ができなくなります。食糧難にも見舞われるでしょう。」

「それのどこが良い話なんだ?」

「ここからが本題です。私が上に掛け合って、スクジェルの一件は懸賞金をしっかり賭けるべきだという事になりました。その金額が100万リポです。」

「おおお!乗った~!」

トルキンエがその金額に飛びついた。

「お前、策はあるのか?」

まさかとは思ったが、とりあえず聞いてみた。

「もちろんさ。ハインツと一緒に行く。そして解決するまで見ててやる!」

そんな事だろうと思った。

「どうです?あなた向きの良い話でしょう?」

スレイが不敵に笑った。

俺はそんなスレイを無視して、スクジェルについて想いを馳せていた。

 

スクジェルとはイカのように素早く泳ぐクラゲの事だ。見た目はイカのようだが全く美味しくないだけでなく、人間が好む魚を食べてしまうので漁師の天敵と言われている。

毒を持っていて海面から飛び跳ねて船上の人を襲う事もあるが、毒そのものはとても弱く数時間ほっとけば治る程度だ。

魔法を使う訳でもない為、危険生物という概念からは程遠く、はっきり言ってこんな生き物に100万リポはやり過ぎ感がある。

スレイの奴が上手く『上』とやらを言いくるめたに違いない。

「ひとつ、気を引き締めてもらう為に、注意しておきます。」

そう前置きをしてスレイが言った。

「被害は漁に出られないだけに留まらず、スクジェルの毒による被害も報告されています。まだ死者は出ていませんが、重傷者が多数出ているのです。」

「は?毒は弱いと思っていたが?」

「はい、1匹の毒はそれほど怖くありません。しかし大量のスクジェルに襲われると全身に毒が回り、最悪の場合、死に至る可能性もあります。そして、それほど大量発生しているのです。」

「げ、やっぱやめようか?」

トルキンエがさっと手のひらを返したのが面白かった。

「いや、行こう。やめるかどうかは見てから判断しても遅くない。トルキンエは行かないのか?」

「いくさ、ハインツが行くなら当然行くに決まってるだろ!」

特に決まってはいないと思うが、そこは突っ込まないでおこう。

他の2人も当然行くらしい。どうせお気楽3人衆は何も考えていないのだろう。

『そんな事ないよ。私は考えた!ハインツがスクジェルと話し合っていなくなってもらえば良いんだよ!』

本気でそれができると思うなら、口で言え。というか、なぜ交渉役がアストリアじゃなく俺なんだ?

ともかく、出発する事にした。

 

 

スレイがプルボードに乗って行こうと言うので便乗させてもらう事にした。

プルボードとは魔法の力で浮いて移動する乗り物だ。

今は安全なプルプール王国とプルパール港町を往復するだけの乗り物になっている。

他の町や村へ行くには危険動物が多数いて、すぐに壊されてしまうからだ。

プルパール港町へは歩けば4~5時間かかるが、プルボードに乗れば20分ほどで着く。

夢のような乗り物だが運賃は片道1万リポと法外な値段だ。

お役人には5人分出しても全く痛くないらしいが、もし俺達だけで行くなら絶対歩く事になるだろう。

 

「なあスレイ。せっかくの機会だからプルボードの動力部を見ることはできるか?」

「ええ、見るだけならできますよ。私が話をつけてきましょう。」

本当に、何者なんだ?これだけ腰が低いのに、色々な所に顔が利くようだ。

いつも1人で役所にいるだけだから左遷でもされたのかと思っていたが、凄腕なのかもしれない。

「ハインツさん、良いそうですよ。どうぞこちらへ。」

 

スレイの後をついていくと、プルボードのほぼ中央部の部屋に着いた。

そこには小さな炉があり、中に石が積まれていた。

俺はそれを見た瞬間、驚愕した。

石が一瞬プルプルの体のようになった後、プルに変換されて動力になっていたのだ。

それが視えるのは俺だけなのだろう。

普通の人には自然と石が溶けて無くなっているように見えるに違いない。

この石はプルカチ鉱石と呼ばれ、大陸の至る所で採る事ができる。

この石もまた、プルプルと同じく、プルの集合体だったのだ。

もしかして、プルプルは死ぬと消えると思われていたが、小さく凝縮してプルカチ鉱石となり積み重なっているのか?

まさか、この大陸は・・・

いや考えるのはやめよう。今まで信じていた足元が妙に不安定なプルプルとした物のように思えてきた。今は乗り物に乗っていて大地に足をつけている訳でもないというのに。

 

 

プルパール港町に着いた。

「さっそく港に行ってみましょう。すぐ近くでスクジェルが見えるそうですから、くれぐれも毒には気をつけてください。今プルパールの病院はどこも満員で受け入れできないそうですから。」

「トルキンエは治癒魔法を使えるが、無駄な魔法は使いたくないそうだから、お前も気をつけろよ、スレイ。」

俺はとりあえずトルキンエの紹介をしておいた。

今ので魔法の種類と性格がきちんと伝わるだろう。我ながらナイスな紹介だ。

 

港に着くと、遠くに海が見えているのに王国兵士たちが塞いでいて近づけなくなっていた。白い制服を着ているからこいつらは幼龍団だ。

王国兵士は7つの部隊に分かれていて、それぞれ制服の色とエンブレムで見分けが付くようになっている。

幼龍団は王国兵士になりたての新米訓練生の為の部隊だ。新米訓練生なので、エンブレムはついていない。

幼龍団に階級は無い。地龍団と呼ばれる王国兵士の最もエリートとされる部隊から訓練を受ける事になる。

 

こいつらに何を言っても無駄だ。

恐らく誰も通すなと命令されているのだろう。愚直にそれを遂行するだけだ。

 

俺たちは黒い制服を着ている王国兵士を探した。

地龍団の制服は黒と決まっていて、王冠のエンブレムを付けているのだ。

「おお、スレイじゃないか。久しぶりだな。噂は聞いているぞ。」

探していた地龍団の王国兵士が向こうから話しかけてきた。

「あ、叔父さん。仕事で来たので通してもらえませんか?」

「叔父さん…?」

俺は半分驚き、半分納得した。

「お前、この件で懸賞金100万リポ賭けさせたそうじゃないか。金で解決できる問題なのか?」

「いいえ、金だけでは解決できないでしょうね。でも解決できる将来有望な魔術師を知っているので、その方に仕事に見合う報酬を与えたかっただけですよ。」

「大きく出たな、その魔術師を紹介してくれないか?」

「もちろんです、こちらが将来有望な魔術師のハインツさんと仲間たちです。」

「お?おう、よろしく。」

いきなり見知らぬおっさんに紹介されたので適当に挨拶すると、ユエルドが俺を制止して前へ出た。

「お初にお目にかかります。ユエルドと申します。こちら我々のリーダーのハインツです。若輩者ですが、何卒よろしくお願い致します。スタン・フォン・デルバット総司令官。」

総司令官?なんか偉そうな名前だな。

『偉そうじゃなくて、偉いのよ。この人、王国兵士の中で一番偉い人なの!』

アストリアが解説してくれた。なるほどね。そりゃ利用できそうだ。

『利用するんじゃなくて、利用していただくの!立場が違い過ぎるわ!』

アストリアの心の声がぎゃーぎゃーと頭に響く。

「まあ、そう堅くならなくて大丈夫ですよ。スタンさんは私の叔父で気さくな人ですから。」

スレイがフォローした。ほらみろ、平気じゃないか。

「まあ、よろしくな・・・むぐっ」

アストリアに口を塞がれた。

「はっはっはっ、元気そうな若者だね。スレイが見込んだ実力を是非見せていただこう。こちらこそよろしくなっ。」

スタンはニコッと笑って港の警備を一部解いた。

 

 

港の傍まで寄ってみると、想像を絶するほどのスクジェルが海面に浮いていた。

沖の方まで黒く見えるのは全てスクジェルの群れなのだろうか?

と考えていると俺達の人影に反応したのか、十数匹のスクジェルがこちらに飛び跳ねてきた。

アストリアが目にもとまらぬ速さで、自分に向かってきた3匹のスクジェルを射抜いた。

「あう~、気持ちわる~ぃ。全部射抜けなかった~」

こいつ、腕が上がっている。既に俺を超えている。あの速さで3匹射抜ければ達人の域だろう。つい先日まで1ミリも前に飛ばなかったというのに。

「どうだ、アストリア。話し合いはできそうか?」

「ムリだよ~。こんなに沢山いたら、何がなんだかさっぱり分からないよ~」

しかたない。

俺はアストリアの手を握り集中した。

「あら、お熱いわね~」

トルキンエが茶化す声が聞こえたが、無視だ。

スクジェルが興奮している?

俺達が近づいたからなのかどうかは分からないが、とにかく全てのスクジェルが興奮状態だった。

「おい、スレイとスタン。夜にまた来ても良いか?」

「ああ、もちろんだとも。何か分かったかね?」

「まだ初めて見たばかりだから全く分からないが、どうやらこいつらかなり興奮してやがる。まずはその原因を調査させてもらう。何度か見に来るから幼龍団のやつらに話を通しておいてくれ。」

「お安い御用だ。こちらも何か手伝える事があれば何でも言ってくれ。この件は王国中が困っているのでね。」

やはり、利用価値は絶大だな。

スレイの叔父が王国兵士団の総司令官という事は、このパイプはもっと広く繋がっているかもしれない。

 

ぷるぷる大陸物語 第7話 ~それぞれの仲間との一幕~

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「ハインツ~」

珍しくアストリアが家を訪ねてきた。

「どうした?」

「んとね~」

自分から訪ねてきたのになかなか用件を言わない。

『弓の使い方、教えて欲しいの』

「え・・・?」

『だからー、弓使えなかったの・・・』

あれは人間が使う道具だぞ?

人間が使えないとかあるのか?

というか、そのくらい口で言え。

『だって、だって、ハインツだって口で言わない事あるもん』

確かにそれは認める。

しかし、今の俺達を他の人が見たら、家の前で無言で突っ立ってるだけだ。

とりあえず家の中に招いた。

アストリアには弓は難しかったか。それなら、とトルキンエの事が頭をよぎった。

『教えてくれたら頑張るから!それにさっきトルキンエの所行ってきたけど、トルキンエもダメだったよー』

は?

俺は人間を仲間にしたつもりだったが・・・?

アストリアはいつもの膨れっ面になっていた。

仕方ない、教えるか。その代わりプルニーの魔法習得も手伝ってもらうぞ。

 


俺達は王国を出て、プルプール大森林と王国の間にある広場に来た。

ここは人間も動物も少なく、居たとしても大人しい動物ばかりだ。

魔法や剣などの練習に最適な場所で、遠くから王国の兵士たちの掛け声が聞こえてくる。

『とりあえず思うようにやってみろ』

アストリアは恥ずかしそうに弓を構えるとへっぴり腰で弓を引いた。

弓の弦がバイーンと大きな音を立てた。矢はアストリアの足元に落ちていた。

・・・。

『言い方が悪かった。下じゃなく前に向かって飛ばすんだ。』

『分かってるもん!』

1ミリも前に飛んでいないが?

『だから教えてって言ったの!』

直接思念を送って怒鳴られると、頭に響いて痛い。

これ以上怒鳴られたくないので、ちゃんと教える事にした。

後ろからアストリアの両手を握り、そのままぐっと弓を引いた。

『手を放すぞ。そのままの状態を維持しろ。』

アストリアも真剣な表情だ。

俺は手を放して離れた。

『その姿勢を覚えろ。覚えたら弦を放してみろ。』

シュッ

という軽い音と共に矢が前に飛んだ。

まだ完璧とまでは言えないが、さっきよりはだいぶ良い。

『次は自分でやってみろ』

アストリアは黙々と、練習を続けた。

俺も自分が弓を使っている感覚でイメージを伝えた。

アストリアの魔法のおかげだろうか?

俺のイメージ通り、弓の扱い方がどんどん様になり、小一時間でチェリートを狩れるくらいの腕前になった。

アストリアは他人のイメージをそのままトレースして動けるらしい。

しかし無意識だと読み取れない為、俺やスレイの動きを見ていても全く学習できなかったのだ。有能なのか無能なのか、不思議な人材だ。

 

その後、プルニーに魔法を覚えさせた。

今回はチェリートの使っていた魔法だ。

プルを強く高速で擦り合わせれば熱が発生する。

これで風を出せるし、水と組み合わせれば霧を出せる。

しかしこれにはプルニーも苦戦した。

プルを擦り合わせる事はできるのだが、全く熱が発生しない。

力が弱く、ただプルが動いているだけなのだ。

練習を続けるようアストリアに言って、俺だけ先に戻る事にした。

 

 

俺はユエルドの家を訪ねた。ユエルドとは一度サシで話をしたいと思っていた。

「おう、ハインツか。今日は1人か?」

いつもアストリア、ユエルド、トルキンエの順で誘って森へ出かけるので、1人で訪ねるのはこれが初めてだ。

「まあな、入っていいか?」

ユエルドは軽く頷いて、俺を部屋に招き入れた。

 

ユエルドの部屋は黒を基調としてかなり暗いイメージだ。

自ら闇の魔術師という印象を付けて、本当の魔法を隠したいという意図が見て取れる。

俺自身も同じだから良く分かるのだ。

「もう俺の奥の手はあれで全部だ。もう一度見たいのか?」

ユエルドは俺が何をしに来たのか分かったらしい。

「それもある。見せてくれたら俺も奥の手を明かすべきだと思ってね。」

ユエルドは頷いて右手を広げた。ユエルドの右手が徐々に暗くなる。

「俺は光を操る事ができる。今光を吸収しているから暗くなっている。」

そう言った次の瞬間、手が光った。

「吸収した光を解き放てば、光を発する事ができる。だから夜は辺りを暗くする方が得意で、昼は光を発する事が得意なんだ。」

「例えば昼に光を多く吸収しておいて、夜に光を使う事もできるのか?」

「そうだな、吸収した時間の半分くらいに減るが、準備時間に応じて使えるぞ。昼に2時間吸収し続ければ夜1時間は使い続けられる。ただし、眠っている間に吸収した光は散っていくから何日もためておく事はできない。」

「なるほど、だいたい分かった。次は俺だな。」

「俺はお前がリーダーだと思っている。お前が全てを知っていれば俺はコマとして動く。別に無理に言わなくても良いんだぞ?」

「いや、ユエルドも知っていた方が今後作戦が立てやすい。」

「それなら聞こう。」

俺は軽く頷いた。

「俺は相手の魔法を視る事ができる。さらに、一度視て理解した魔法を使う事ができる。ただし、相手の魔法を使う場合は、その魔法を使う魔術師や動物に直接触れていなければならない。」

「どんな魔法でも使えるのか?」

「理解さえできればな。だが、その魔力は俺に依存するから全く同じようにとはいかない。俺にも得手不得手がある。やはり調査系の魔法の方が得意らしい。アストリアの魔法はとても相性が良いんだ。アストリアに触れてさえいれば本人より扱いは上手いと思っている。逆に攻撃系の魔法はかなり苦手だ。昔、火を出す魔術師の魔法を使った事があったが、マッチを持ち歩いた方が現実的だと思った。恐らくユエルドの魔法も使えなくはないが、マッチで照らした方がよっぽどマシだろう。」

「なるほど。万能という訳では無いんだな。」

「万能ではないが、これには大きな利点がある。相手の魔法の本質を理解しているからその人の魔法の応用技を教える事ができる。アストリアは元々相手の心を読むだけだったが、相手に思念を飛ばす事もできるようになった。いつかユエルドもトルキンエも応用技を考えられると思うぞ。」

「なるほどね。その時はありがたく教えてもらおう。」

「それからな。複数人に触れると、全員の魔法を全てトレースできるようになる。それで2人や3人の組み合わせ技を開発してやったりもできる。」

「悪いがそれはパスだ。他人と息を合わせるのは最も苦手な事でね。」

「そうか?まあ、その時になったらまた考えてみてくれ。」

「ふっ。俺より他人と息を合わせられそうにないお前に言われるとはな。まあ、考えてやるさ。それよりお前も、女は優しく扱った方がいいと思うぞ。」

「なんだ、いきなり。俺には関係ない事だろ。」

「知らなかったのか?俺達の仲間には2人も女が居るんだぞ?仲違いはしたくないからな。」

「ほう。一番仲違いしてた奴が良く言うぜ。考えておいてやる。」

「はははっ」

 

ユエルドの家を出て帰ろうと思ったが、せっかくなのでトルキンエの家も寄っていく事にした。

 

トルキンエの家は留守だった。

しかし、トルキンエの家から見える広場に、子供たちに囲まれている1人の女性を見つけた。服装は白衣姿でトルキンエらしくないが、顔は見覚えがある。

「トル姉ちゃん、ここの編み方教えてー」

「あん?前教えただろ?一回で覚えろ」

などという声が聞こえる。ぶっきら棒だが、なんだかんだで優しく教えている。

トル姉?やはりそうなのか?

なんだか見た目だけトルキンエで中身は別人のような気がしてきた。

半信半疑で声をかけるのを躊躇っていると、1人の子供が泣きながら『トル姉』のところへやってきた。

「あああー、ころんだぁ-」

膝と肘をすりむいているようだが元気そうだ。

「男だろ?我慢しなっ」

そう言って消毒液らしきものをぶっかけた。

「魔法で治してよー」

「ふんっ。この程度で魔法に頼るなっ。王国兵士になるんだろ?」

「だってー」

子供は泣いていたが無視して編み物に戻っている。

トルキンエである確信が持てたので声をかける事にした。

「よお、トル姉。人気だな。」

「あーん?誰かと思えばハインツか。仕事か?」

「いや、今日は様子を見に来ただけだ。」

「じゃ、帰りな。」

「まあそう言うな。それ貸してみろよ。」

自慢じゃないが、編み物は得意だ。

トルキンエの教え方は擬音ばかりで何も要点を言っていない。

ここをくいっとやって、ぎゅっとやって、ぐっとひっぱる。。。では子供に伝わるわけがない。

俺が何本目の糸に通すかなど、具体的に教えてやるとすぐに1人で編めるようになった。

「お前、友達いなくて1人寂しく編み物してたのか?」

トルキンエが物凄く失礼な事を言いやがった。

「ハイ兄、寂しかったのー?」

子供が真似をしやがった。このやろう。ハイ兄じゃねぇ。ハインツだ。

「ハイ兄、玉蹴りしよー?」

さっきまで泣いてた子供がころっと元気になって俺のズボンを引っ張っている。

「元気になったんなら友達と遊びな。俺は忙しいんだ。」

「ちぇっ」

俺は知的でない遊びは嫌いだ。玉蹴りも知的にできるスポーツだが、子供は走り回るだけの方が楽しいだろう。

「おい、ハイ兄、アストリアとは仲直りしたのか?」

「は?仲違いなんかしてねぇから、仲直りも何もないだろう。さっきも弓の扱い方を教えてやったところだ。」

「そうかい。それなら良いけどな。女の子は優しく扱えよ。」

ユエルドと同じ事を言いやがる。

「女の子は優しくね。ハイ兄。」

子供が馬鹿にしてくる。

「優しくして欲しいのか?トル姉」

「私じゃないよ。まあ、頑張って考えな。」

トルキンエがしっしっと帰れの合図をした。

俺もそろそろ飽きたし、その場を退散した。