心に噺がおじゃましまっす!

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ぷるぷる大陸物語 第13話 ~無機質な巨人2~

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夜が明けたので全員を叩き起こした。
もう朝の6時過ぎだ。
5時頃から明るかったというのに1時間以上遅れている。
暗いから危険だと判断したんだ。明るければ出発できるだろう。

黄龍団はさすがだ。明るくなる前に起きていて出発の準備が整っていた。
お気楽3人衆にも見習ってほしいものだ。
今はサネアツを含めてお気楽4人衆だったな。

ガーラはそんな俺達を見て、豪快に笑っていた。
何が可笑しい。笑い茸でも食ったんじゃないのか?

「トル~。ハインツ警報~。大嵐の予感ですぅ~」
「マジか~。アスなだめて~」
「むり~」
アストリアとトルキンエがヒソヒソとそんな事を言っている。丸聞こえだ。


俺達は黙々と山道を登った。
風の音と鳥のさえずり以外何も聞こえない。
王国の喧騒に慣れてしまったせいかとても静かに思えるが、やはり懐かしい。
木も鳥も、全てが見覚えのある風景だ。

森には独特な香りがある。この香りもまた、懐かしい。
山で育った俺達は、山の香りに敏感だ。
臭いが危険を知らせてくれるからだ。
動物の臭いを感じたら身を隠す。
湿り気のある風の臭いを感じたら豪雨に警戒する。
土の臭いを強く感じたら土砂崩れを警戒する。
今はその何れもなく、平和で落ち着く香りだった。

「ハインツ予報~。まもなく落ち着いてくるでしょぅ~」
俺で遊ぶな。暇なのか?
「ははっ。仲良くやってるようで何よりだ」
サネアツが保護者面しやがる。
俺達の故郷が大変だって言ってるんだぞ? まったく。


その日は何事も無く、明るいうちに中継として使っている黄龍団駐屯所に到着した。
駐屯所は女性の足で無理なく歩いても到着する場所に、等間隔で建てられている。

「ほらみろ。急がなくても明るいうちに着くじゃないか。明日から9時起きな」
トルキンエが緊張感の無い事を言っている。
「もしゴーレムに襲われたら逃げる事になるんだぞ? 通常よりも遅くなるだろう。どんなに早く出ても安心はできない。明日は4時起きしろ。5時に出発だ」
「ええ~。朝は苦手だ」
「今から寝ろ!」
「寝れるか!」
「ガーラ! 黄龍団の中に、人を眠らせる魔法を使える人はいないのか?」
俺はダメ元でガーラに聞いてみた。
「はっはっはっ、おりませんなっ」
だから何が可笑しい?

「おいサネアツ。頼みがある。×××を作ってくれ」
「うう、それで起こされるのか? 俺も朝は苦手なんだが」
サネアツは今から作る物の使い道を察して身震いした。
「全員4時起きすれば使わない」

翌朝、俺は言う通りに4時起きしない腑抜け4人組に向かってサネアツが作った道具を放り込んだ。
金属の箱の中に爆竹を入れただけの単純な道具だ。

ドバババババッ!

豪快な破裂音に全員跳び起きた。
さすがサネアツ。いつも良い道具を作る。
俺はこれを爆音目覚ましと名付けている。
ガーラはいつも通り豪快に笑っていた。
こっちは真剣なんだが。

「まだ暗いじゃないか。おやすみ」
トルキンエがまた布団に入ろうとしたので、もう一つ爆音目覚ましの準備を始めた。
「わっわっ、起きるって」
今日は順調だ。

特にゴーレムや動物に襲われる事も無く、順調に山を登った。
俺は記憶の無い親の事を考えていた。
プルプット村は俺が生まれ育った村だが、親はプルプット村の人間では無かった。
スタンにも指摘されたが、顔立ちからすぐに分かる。

どこから来たのかも言わぬまま両親とも死んだそうだ。
何かの目的があったらしいが、それすらも誰にも言わなかったそうだ。
ただ、プルプット村の技術にとても感心を示し、学んでいたらしい。
プルプット村では、魔法を使える者がほとんど生まれない。
今は1人だけいるが、それも弱い火を扱うだけで、村の明かりを灯す程度にしか使われていない。
余談だが俺が初めて他人の魔法を使ったのが、そいつの魔法だ。

ある日、村人が頻繁に魔獣と呼ばれる強い動物に襲われる事件が起こった。
当然村人では敵わず、王国兵士ですら手をこまねいていたらしい。
俺の両親は強い魔法を使う事ができた為、俺をサネアツの家に預け、2人で討伐にでかけた。
それっきり、魔獣も俺の両親も見つからなかった。
俺が生まれて1年も経たない日の出来事だった。

全て聞いた話だ。全く覚えていないので、それほど悲しいとは思わない。
むしろ不幸なのは、その後村を救った英雄の子として腫物のように扱われた事だ。
サネアツだけは口うるさかったが。


「今日こそゴーレムの残骸をお見せできますぞ」
3日目の朝、ガーラが笑いながら言った。
こいつはいつも笑っている。

ところが、昼頃になり岩の多い開けた場所に出た時、ガーラの笑顔が消えた。
「おかしいですな。確かにここにおったのですが」
一度もゴーレムを見た事が無い俺からしたらとても疑わしい事だが、嘘では無さそうだ。
もし嘘ならアストリアが見破っているはずだ。

「ゴーレムだ!」
黄龍団兵士の声だ。
振り返ると岩が起き上がって立っていた。
「ああ、おりました。あれです」
ガーラは武器を構えながら、豪快に笑った。
ガーラの武器はハンマーだ。剣では文字通り『刃』が立たないらしい。

「アストリア、ゴーレムは何考えてるか分かるか?」
「全然ダメ。ただの岩と同じで考えが伝わってこない」
本当に生物ではないのか?

ガーラはゴーレムに近づき、振り下ろされた腕のような岩を避けるとすかさずカウンターを食らわせた。
頭の辺りの岩にひびが入った。
直後にもう1つの腕が振り下ろされる。
ひらりとかわした。
ガーラの奴、体格に似合わず身軽だ。

ゴーレムの方は痛みを感じないのか、頭にひびが入った状態でなおも立っていた。
ゴーレムの後ろからハンマーを振り下ろす男が見えた。
黄龍団の1人が回り込んだのだ。

驚いた事にゴーレムは振り返りもせず、そのままの姿勢で後ろに腕となる岩を振り回した。
回り込んでいた男が跳ね飛ばされる。
前と後ろという概念もないのか?
良く見ると腕の部分は完全にはついておらず、浮いているようだ。

ガーラがゴーレムの足を狙った。
足はもろく崩れ、それと同時にゴーレムは体ごと崩れていった。
崩れるゴーレムに驚いたのか、ネズミが逃げていった。
崩れるゴーレムから逃れるように、そこにいたネズミが散っていった。

トルキンエが跳ね飛ばされた黄龍団の男に駆け寄った。
ゴーレムは動かない。
「ハインツ殿。これがゴーレムの残骸ですな」
「残骸じゃなくて動いていたじゃないか」
「どういう仕組みか、生き返るようですな。はっはっはっ」
「こんな時によく笑えるな。これ本当に大丈夫なのか? また動き出したりしないのか?」
「さあ、今までは崩れた後はしばらく動かんかったのですが、なんとも分かりませんな」
笑いながら頼りない事言うな。

俺はサネアツお手製爆音目覚ましを投げつけた。
爆音にも反応しない。確かに動かなそうだ。

近づいて調べてみるが、本当に何の変哲もない岩だった。
ゴーレムが動いていた時に、俺はゴーレムの体の周りにプルが覆われているのを見た。
それは地面から伸びているようだった。しかし、今はそのプルは無くなっている。
大地がゴーレムを動かしたようにも見える。
まさかとは思うが、この大地全体がゴーレムの本体という事なのだろうか?
しかし、今は大地にも当然プルは見えない。

俺が思い悩んでいるとサネアツも岩を調べ始めた。
黄龍団から借りたのか、手にはハンマーを持っていた。
そしてガンガン叩いて岩を砕いていく。

「確かに、ただの岩だな」
サネアツはそれでも色々と調べていた。
特によく調べていたのは、ゴーレムの腕や足と思われる岩と胴体と思われる岩の接合部分だ。
そこは俺も気になったところだ。
完全にくっついておらず、浮いているようだったからだ。
だからこそ、前も後ろも無く、回り込んだ兵士が不意を突かれたのだ。

そもそも、頭部と思われるところに目すら無い。
真ん中に1つの大きな岩があり、それが胴体のように見え、そこから4つの手足と思われる岩が添えられていただけだ。
生物と言うより、でかい操り人形だ。

いくら調べても今まで聞いていた事以外何も分からなかった。
しかし、ゴーレムの残骸が目の前にあるのだ。
何も分からないままではこの場を去れない。


1時間ほど調べただろうか。
俺とサネアツ以外のみんなは退屈したのか雑談をしていた。
「きゃー、また出た!」
アストリアの声だ。
アストリアが驚き、悲鳴を上げるのは実は珍しいのだ。
生物であれば近づいている事が分かるからだろう。

今回は1体じゃない。3体のゴーレムに囲まれた。
アストリアは思考を読み取れないと言っていたが、さっきの失敗を踏まえて対策したとでも言うのだろうか?

サネアツはハンマーを構えたままだ。
この状況はやばいな。
「トル、壁! アス、霧!」
俺は素早く2人に指示した。

俺達に一番近い1体のゴーレムの前に壁が現れ、辺りは霧に包まれた。
ユエルドは指示などせずとも幻影を作り出している。
俺達はゴーレムが幻影に気を取られているうちに、トルキンエの作った壁を盾にその場を後にした。

 

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